花の本棚

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遠田潤子 邂逅の滝

遠田潤子 「邂逅の滝」
遠田さんの新しめの作品が面白そうだったので読んでみました。

 



 
山間にある町にある紅滝と呼ばれる場所が名所として知られていた。その滝にはかつて恋をした相手に裏切られ捨てられた姫が祀られているという言い伝えがあった。町としては由緒ある祭りとして盛り上げて町おこしにしようと考え、毎年「紅姫」を選出して姫を祀る行事を行っている。一方でこの行事には祟りがあり紅姫に選ばれた者は姫に呪われて死ぬとも言われている、というお話。
 
エンターテインメント系の短編集となります。上に書いたのは最初の章のお話で、それぞれの章で時代を変えて紅滝にまつわる物語が書かれています。
帯などにもあるようにどの章も男女の恋の描写があるのですが、どの章の内容も絶望的な背景から始まるのでダークな恋物語になっています。本書の見所はこの絶望的な恋物語の中で描かれている心理描写の上手さです。どの章も良い結末にはなっていませんが、当事者たちの心理描写が非常に綺麗に描かれています。結末は暗いはずなのにそれを忘れるくらいでした。
また本作は短編集ですが全体を通してのつながりがあります。読み進めていくと前の章とのつながりが上手く作られていたりするのでそういった点も見所になるかと思います。
 
作中の一つの章にていつか赦す日が来ると信じて怨み続けるのも美しい、という描写がありました。
この考え方は非常に素敵で良い。現在相手を怨みたい自分を肯定しつつ、未来の自分がその怨みを乗り越えることを信じるというのは簡単に出来るものではありません。私も今まで生きてきて「死ぬまで赦さない」と決意した人物は10人を超えています。自分がその人と同じことをしていないかを見直すために敢えて水に流さず怨みとして忘れないようにしているのですが、この考え方を参考にもう少し意識を変えてみようかなと思いました。私の場合ですと、自分の人間性が老熟しきってもう大きくは揺らがないだろう、と思えるようになったらスッパリ忘れ去るのも良いかもしれませんね。
 
心理描写の仕方がとても上手い作品ですので、気になる方はチェックしてみてください。