花の本棚

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市川憂人 神とさざなみの密室

市川憂人 「神とさざなみの密室」
気になっていたけどしばらく放置してしまっていた作品。
 

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現政権への反対運動をするグループで活動する女子大生は目を覚ますとどこかの一室に監禁されていた。自身は拘束されているだけでなく、前にはグループの創設者の遺体が横たわっていた。一方でその隣の部屋には別の思想の政治団体に所属する男性が監禁されていた。対立する団体のメンバーということもあって最初は反目しあうが、自分たちがなぜ閉じ込められているのか?犯人は何者なのか?を探るというお話。
 
これはミステリー小説となります。
市川さんといえば「ジェリーフィッシュは凍らない」のシリーズですがこの作品はそれとはまた違ったテイストのミステリーになっています。こちらも推理の難易度は高めでしたので、自分で推理を頑張りたい方には楽しめる作品だと思います。
また主役二人が若者の政治団体に所属している設定なのでそういった団体がどういう考えで何を活動しているのかも書いています。私は政治団体の知見はまったくなかったので、テレビで見かえる活動家の人たちはこんな思いで動いているかもしれないなーと少し感心しました。
 
作中にて「多数決は参加者全員が正しく判断できることが前提のシステム」という話が出てきます。
影響力のある人の発言に参加者がついていくだけの状態での対数決は独裁と変わらない、ということだそうです。言っていることは正しいのですが、私はそれが悪いとは思わない。
というのも「この人が言ったから」という安心感は思った以上に効果が高いからです。もっと言うと「人のせいにできる言い訳」を用意してもらえないと行動できない人は自分で責任もって選べる人より圧倒的に多い。そういう人たちに自分で判断してください、と言っても怖くて動けず結局は「自己責任で押し付けるのか」と言い出すのは目に見えています。
私は自己責任で全部決めていっているのでこの安心感への渇望が国民性から来ているのかはよくわかりませんが、それだったらはったりでも「全責任は私が負う」とカリスマ性で引っ張ったほうが物事はスムーズだと私は思っています。
 
推理に挑戦したい、という方はぜひチャレンジしてみていただきたい作品でした。