花の本棚

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長尾和宏 小説「安楽死特区」

長尾和宏 「小説「安楽死特区」」
本屋さんで気になって買ってみました。
 

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舞台は2024年の日本、平均寿命が大幅に伸びたこともあって日本は超高齢化社会を迎えていた。認知症や病気に苦しむ高齢者が増えたために、政府は海外で取り入れられている安楽死を法的に可能とする特別区域を作ることを決めた。国民の抵抗感を和らげるために第一団体として選ばれた人たちがどういった思いで集まり、死を迎えようとしているのかを描いた作品。
 
ジャンルはSF風に安楽死をテーマに書いた作品となります。
日本に安楽死が導入されたらどうなるのか?を書いており、著者は医師なので医療面については特にリアルに書かれています。日本では死に関する話題に対して非常にデリケートな面があるので導入自体も揉めるところが多く、また仮に成立して始まったとしてもやはりこういうところで揉めるだろうな、というのが良く書かれています。
社会問題の視点では良い作品なのですが、物語そのものはそれほど特筆する点はありません。ラストも急に終わってしまったので雑な印象を受けてしまいました。
 
日本に安楽死施設が出来たとしても、たぶん使う人はあまりいないだろうなと私は思います。
日本人の「死にたい」は「ハワイのビーチに行って休みたい」という意味だ、なんてジョークを聞いたことがありますが日本人の死に対しての覚悟なんてまさにそれくらいです。本当に死にたい人は安楽死施設なんてなくてもとっくに死んでいるでしょう。
おそらく、「死にたい人」ではなく「死なせたい人(殺したい人)」を周囲が追い込む施設になるだけでしょうね。生きていても邪魔な病人を「苦しそうだから死なせたい」と言って美談にしたり、仕事でミスした人に「お前使えないな、安楽死しに行けば?」という煽りが誕生するだけだと思います。
 
社会問題として安楽死が気になる方は読んでみるとためになります。