花の本棚

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新名智 あさとほ

新名智 「あさとほ」
あらすじを読んで気になったので読んでみました。
 


主人公の女性には双子の妹がいた。幼い頃に幼馴染と一緒に訪れた廃屋の中で妹が消失した瞬間を目撃し、次の瞬間から両親も含めて自分に妹は存在しないことになっていた。妹のことを覚えているのは自分と幼馴染だけになっていた。
そして現在、大学生となった主人公の指導教授が失踪した。彼は「あさとほ」という失われた物語について調べていたのだが、過去にもこの物語に関わった人物が何人も失踪していた。妹が失踪した現象と関連があるのではと考え幼馴染とともに調べ始めるというお話。
 
ホラーミステリ系の作品となります。
本書の見所は登場人物たちの心理描写が上手い事です。本作では「自分の人生がつまらない物語になってしまったらどうしよう」と悩む姿が多く書かれています。ドラマティックなことが何もなくて焦ったり、ほんの一つの出来事で人生全体が台無しになったと悩んだり、とその姿は結構リアルに描かれていて面白いです。
ミステリとしてみると内容は良く出来ていますが推理したりする必要はありません。妹の失踪の謎がミステリ部分ですが、あくまで物語を面白くするために添えてあるくらいの認識でOKです。
ホラーとしてはそれほど強烈な描写はなく軽めでした。どちらかというと超常現象系のSFと言った方が正確だと思います。SFとしてみるとしたら「あさとほ」の正体は不気味ではありましたが結構ロマンあるもので面白いのではと思いました。詳しく書くとネタバレになるので言えませんが本作全体を通してホラー感はそれほどないのでホラーを期待して読むと肩透かしになってしまうかもしれません。
 
上にも書いたように本作には自分が物語の主人公だと考えると今の人生がつまらない終わり方になってしまうのでは、と悩むシーンがありました。「普通な人生じゃつまらなくて嫌」とは誰しも一回は考えたことはあるでしょうから共感する人は多いだろうと見ています。作中の説明によると、自分が憧れる物語を追い過ぎるとおかしな行動に走りがちになると指摘されていました。作中の例ですと「既婚者と不倫の末に自分の方が選ばれる」というのに憧れて既婚者と付き合い続ける女性がいました。
これは悪い側の例ですが私としては自分が憧れる物語に沿うように行動すること自体は非常に共感できます。というのも私は自分がなりたい姿に近づくために考え方や行動を変えることが今までも多くあったからです。例えば私は「才能は無いけど地道に努力を重ねて、良い結果を掴み取る」という物語や人物が好きなので、努力や勉強を重ねるのは苦ではありません。こんな感じでこういった人物像になりたい/なりたくないという自分の価値観を基準に行動することは多々あります。
これでもし私が「若くして才能を見出されて、社運を賭けたプロジェクトに大抜擢される物語」を好んでいたら、才能を持っていない自分やそんな出来事も起きない会社に不満を持ち人生がつまらなくて不貞腐れていたかもしれませんね。
 
SF系として見ると楽しめる内容になっていますので、気になる方はチェックしてみてください。