花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

長崎尚志 人狩人

長崎尚志 「人狩人」
あらすじを読んで面白そうだったので読んでみました。

 



 
主人公の女性刑事は驚異の検挙率を誇る刑事と組むこととなった。しかし彼は汚職に手を染めることで検挙していると疑われているために、彼女の役割は捜査に同行しつつ彼を監視することであった。彼の行動は不可解な点はありつつも捜査の実力と熱意は本物で、身元不明の遺体が埋められている場所を次々と発見していく。
彼が見つけた遺体にはいずれも矢傷があることと身元不明であることから、指名手配犯などいなくなっても捜索されない種の人間を拉致して獲物に仕立て、弓で狩りをする集団によって殺害されたのではと疑い始める、というお話。
 
刑事物系のミステリー作品となります。
物語としては組織に隠ぺいされた犯罪組織を暴くために、こちらも悪の手を借りるという人物たちが主役なのでダークヒーロー的な刑事物が好きな方にはおススメです。
明示はされていませんが、内容から見るに犯罪者を私刑に処すことを副題として描いているようでした。犯罪者を獲物にすることで自分たちが世間に蔓延る悪を狩り取っている、という歪んだ発想をする人々をどう思うか、を考えながら読むとより楽しめるでしょう。
また登場するキャラクターも個性的で面白い人物が揃っているのも本作の見所となります。そのキャラたちの中から誰が怪しいかを見極めていくことになるため、推理好きな方にも良いかと思います。
 
長崎さんの作品を読むのはこれが初だったため、他の作品もチェックしてみようかと思います。
本作が気になる方はチェックしてみてください。

司拓也 嫌われずに「言い返す」技術

司拓也 「嫌われずに「言い返す」技術」
職場の人間関係について今の上司に相談したところもっと言い返すようにした方が良い、とアドバイスをもらったのでこちらを買ってみました。
 


パワハラというほどではないけど言われると腹が立つ相手に対して「人間関係を壊さずに」言葉を返す考え方や言い方を紹介した書籍となります。
これまでの反論系の書籍では「論理的に打ち負かして二度と話しかけられないようにする」という「言った後に人間関係が破綻してOK」な相手、いわゆるハラスメントをしてくる人にフォーカスが当たっているものが多い傾向でした。これまでの時代背景的にそういった論破が流行っていたというのもありますが、現代の傾向を見ると「ハラスメントではないけど鬱陶しい物言い」に対して、言い返しつつもその後も仕事などの関係は今まで通り続けられるいい塩梅な言い方が必要な場面が増えている、というコンセプトで書かれています。ちなみに本書の出版は2024/2なので現代のトレンドを踏まえた内容と言えるでしょう。
 
大項目と一言でのまとめは以下となります
①言い返せない人が持っている行動心理
 まず自分の傾向がどれかを知って対策を立てましょうという章。
 私に当てはまりそうなのは「自分に問題があるのでは?」と最初に考えてしまう「自分責め症候群」タイプ
②話すのが面倒くさい人が使っている策略を知る
 ストローマン論法、フットインザドアなどひと昔前に流行った人を言いくるめてやらせるテクニックが紹介されている
 対策方法は③以降で
③人間関係を破綻させない言い返し方
 主に以下の3つ
 無力化:相手の言葉を全肯定→感謝する、で話をおわりにする
 カウンター:言ってきた側に具体的な説明を求める
 クッション:自分には悪いところがある、と先に受け入れておくと言われても動じなくなる
といった内容になります。
上に書いたように「人間関係を壊さずに」が重要なので紹介されている言い返しのパターンはそれほど語気強めなものはありませんでした。おおむね「感謝する」「説明を求める」「受け入れる→だから何?」の3つのどれかを使うというものでした。
本書の内容が私の会社で使えそうだと思う理由として、上に書いた「ハラスメントではないけど鬱陶しい物言い」を言ってくる人のパターンの一つに「職人気質でコミュニケーションが下手な人」が紹介されていたことです。これはまさに私の職場によくいるタイプでどう対処していいか悩むところだったのできっと紹介されている内容も役立つことでしょう。私の会社の場合パワハラしてくる人は通報窓口に報告するだけなので、むしろ対応が楽だと思います。
 
これまで私が書いた仕事で使えそうな書籍は会社でも同じ文章で伝えているのですが、それを見た上司から業務でどうしていきたいかも書いて欲しい、というリクエストをもらいました。せっかくなのでそれも書いてみましょう。

1. 「言ってきた側に具体的な説明を求める」を積極的に使う
「自分の事前調査が足りなかったかな」「考えが浅かったかな」と自分の中にまず原因を探る人間性をしているので、それをいったん止めて説明を求めるようにしてみるのは効果がありそうです。説明をもらった方がその後いつも通りに自分の中に原因を探るのもやりやすくなりそうです

2. 言い方に気を付ける
これまで私の言い返したときの言葉を振り返ると、「お金貰ってもやりたくありません」「〇〇さんと接点のある仕事は引き受けません」のような怒りのあまりに語気強めなフレーズが出る傾向にあります。色々と我慢した末こうなっている経緯もあるので1.を使って溜め込みすぎないようにしつつ、怒りがある状態では言葉を発する前に「席を立つ」などで一回踏み止まるようにしてみます。一回踏み止まった後に上のようなフレーズが出たらもう仕方ない。
 
今の時代にあったコミュニケーションスキルとしては有用ですので、気になる方はチェックしてみてください。

白川尚史 ファラオの密室

白川尚史 「ファラオの密室」
このミス大賞受賞作品とのことで気になったため買ってみました。

 



 
主人公である古代エジプトの神官は死亡して冥界に旅立とうとしていたが、心臓が欠けていたために神の審判を受けられなかった。欠けた部分を探すためにミイラとして現世に蘇り、自身が刺殺された事件のことを調査し始める。
その最中で先王のミイラが密室状態のピラミッドの中から消失して外の神殿で発見される。この出来事によって死んだ先王の魂が葬儀を否定したと見られて国中が騒ぎになってしまう、というお話。
 
SF系のミステリー作品となります。
死んだ人間が蘇るという設定なのでSF系としましたが、SF要素は物語としてだけでありミステリー部分には絡んでいませんでした。
本作の見所は古代エジプトという舞台設定が上手く使われていることです。ミステリー部分ですと詳しい情報を得る捜査などはないため、この時代やエジプト文化の中でありそうなものから閃きで謎解きをしていく感じになります。上に書いたようにミステリー部分についてはSF要素が絡まないので推理するのが好きな方は楽しめるでしょう。
また当時の人々の生活、神への信仰や考え方といった描写が丁寧に書かれているので読んでいて面白い。私は古代エジプトのことを何も知らなかったので良い勉強にもなりました。
 
作中にて人からもらってばかりいて与えることをしないでいるといつか報いを受ける、という考え方が語られていました。この考え方は現代にも通ずるところがあり、私としては賛同できました。「報い」と表現すると大袈裟ですが要するにそういった人間関係は長続きしないのだと解釈しています。
「貰えるものは有難く貰っておく」というスタンスではいるのですが、貰うばかりでどう返したらいいか分からない人との関係は長く続いたことがないと私の経験上でも理解しています。現金な性格だと日頃から言っていますが何もしなくて貰えるなんてラッキーとずっと考えるほど図太くもなく、貰ってばかりだと申し訳なくなってしまいます。
一方で自分が与えてばかりと気づいたときはどうしているか、と考えてみると腹が立ったりはしないのですがその人や集団の優先順位が一気に下がっていました。このあたりは現金な性格がもろに出ていると改めて思いました。持病や子育ての業務配慮してもらうばかりで何もしないメンバーが多いためにチームを捨てようとし始めたのがまさにこれで、最近の自分の行動ともリンクしている部分があります。
 
ミステリー以外でも楽しめる部分があるため、気になる方はチェックしてみてください。