花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

阿津川辰海 黄土館の殺人

阿津川辰海 「黄土館の殺人」
阿津川さんの館シリーズの新刊が出ていたので買ってみました。
 


山奥に「荒土館」という芸術家一族が集まる屋敷があった。その当主を殺害しに向かっていた男性は道が寸断された道にて向こう側にいた女性と交換殺人を持ち掛けられる。道を引き返して旅館で待機していると、当主を殺害した合図と決めた信号弾が撃たれたため彼女側のターゲットである旅館の女将を殺害する機会を伺い始める。しかし同じく地震で行き場を無くして同室となった男性は名探偵を自称しており、殺害計画をことごとく看破されてしまう。
一方で「荒土館」に招待されていた主人公たちは地震の影響で名探偵である友人と離れ離れになってしまう。屋敷に泊めてもらうことになったのだが、翌朝に当主が殺害されているのを発見する、というお話。
 
クローズドサークル型のミステリー作品となります。
このシリーズは謎解き要素が多く、トリックの仕掛けも大がかりなものが用意されているため推理しながら読むと楽しめるでしょう。文庫本で全600ページほどの長さですのでボリューム的にも十分だと思われます。また物証だけでなく人物の関係性や性格から解読する部分もあるので謎をすべて解く難易度は高めになります。
ミステリー面だけではなく、かつて探偵をしていた女性が立ち直っていけるように主人公たちが寄り添うシーンも本作の見所となります。ただし、この部分は本書より前のシリーズを読んでいないと分からない点が多いので、ちゃんと楽しみたい方は前作にあたる2作品を先に読んでおくと良いでしょう。
 
謎解き要素が多いので推理が好きな人はぜひ読んでみてください。

小西マサテル 名探偵じゃなくても

小西マサテル 「名探偵じゃなくても」
「名探偵のままでいて」が面白かったので続編であるこちらを読んでみました。

 



 
レビー小体型認知症である主人公の祖父が孫娘から持ち込まれる事件を聞くと幻視でその出来事を見たかのように真相を推理するという安楽椅子探偵系のミステリー短編集となります。本作から登場するキャラクターがいること以外は物語の流れは前作と変わっていません。
ミステリーとしてみると前作よりも軽めに作られています。真相もそこまで複雑ではないので自分で推理したりする必要はないでしょう。
本作の見所となるのは物語の雰囲気の良さにあるでしょう。主人公と祖父のやり取りや幻視に対しての反応などといった家族愛の描写は感動的な場面が多くありました。
ただミステリー部分よりも恋愛部分や家族の部分が前作よりも比重が大きくなっている点は少々気がかりでした。前作の終わり方とその続きであることを踏まえると自然ではあるのですが、ミステリーとしての期待が大きいと物足りなさを感じるかもしれません。
ちなみに前作「名探偵のままでいて」を読んでから本書を読んだ方が良いです。上記の恋愛部分である主人公と周囲の男性たちの関係性は経緯の説明がないので前作を読んでいないと理解しきれない部分があります。
 
ミステリーとしては軽めですが雰囲気の良い作品なので、気になる方は気軽に手に取ってみてください。

方丈貴恵 孤島の来訪者

方丈貴恵 「孤島の来訪者」
本作が「時空旅行者の砂時計」の続きにあたるということで読んでみました。

 



 
主人公の男性は幼馴染を死に追いやった人物に復讐するために、番組制作会社のロケに同行していた。ロケで訪れた無人島には秘祭の伝承が残されており、今回撮影する女性はこの島と関わりのある一族の末裔であった。
島で取材をしていると復讐対象の一人が殺害されており、推理の結果その犯人は島に住む猫であると判明する。猫の正体は「マレヒト」と呼ばれる生命体であり、生き物に擬態する能力を持つ別世界の生き物であると明らかになる。
その後マレヒトが猫からロケ同行者の誰かに擬態した形跡が見つかり、誰が「マレヒト」であるかを探り始める、というお話
 
SF系のミステリー作品となります。
SF設定の使い方が上手いのが本作の見所になります。前作「時空旅行者の砂時計」もそうでしたが方丈さんは特殊設定の構築の仕方と使い方が非常に上手い。それらを駆使した伏線に張り方や真相はきちんと納得のいくものになっているので、実際にこういう世界だったらと想像しながら読むと楽しめる作品でしょう。SF要素である「マレヒト」の特性については作中で説明がされているため、きちんと理解して読み進めると真相を推理することも可能な構成になっているので自分で推理したい方にも楽しめます。
なお、前作にあたる「時空旅行者の砂時計」は読んでいなくても大丈夫です。気になった方から先に読んでしまってOKでしょう。
 
SF系ミステリー作品が好きな方にはおススメです。