花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

櫛木理宇 ぬるくゆるやかに流れる黒い川

櫛木理宇 「ぬるくゆるやかに流れる黒い川」
櫛木さんの作品で面白そうなものがあったので読んでみました。

 



 
二つの家族を殺害した男性が拘置所で自殺した。彼は動機を明確に話していなかったが、SNSのアカウントなどから女性に対して強い憎悪を持っていたことだけが判明した。それぞれの家庭の被害者遺族である女性二人が再開し、犯人が自殺しただけでは到底納得できず事件を独自に調査し始める、というお話。
 
社会における女性の立場をテーマにした作品です。
男尊女卑の社会と言われていた時代もありましたが現代ではその差を埋める動きも多くあります。本書ではそういった動きで女性の立場がどう変わってきたか、何が問題になっているかを描いています。
登場する殺人犯の一族は代々女性を嫌悪しているという設定なので本書は終始ダークな雰囲気で進みます。その描き方が非常にリアルで生々しいところが見所ではあるのですが、物語設定であるといえども女性の方が読むと嫌な気持ちになるかもしれません。
メインのテーマの他にも女性を見下す男性側の心理、家庭内での立ち位置、など心理描写の上手さが随所に現れているため読んでいて面白かったです。
 
作中では現代では女尊男卑で女性優遇だという主張が多く出てきます。私が見ている範囲ではそんな感じはしませんが、ジェンダー系の話題は深入りすると変なものを招くので控えます。その代わり優遇について思うことがあるので書いてみます。
昔と社会の価値観が変わったことで優遇の定義も変わったと考えています。昔は同じ労力を提供しているのに出世が早かったり給与が高くなったりすることを優遇と呼び、いわゆる男尊女卑のようなものでした。しかし現代では労力なしに利益を貰えることを優遇と呼んでいるようです。そういった変化から「女性割引」や「女性専用車両」といった女性というだけで得をしているのが許せない、という主張が出てくるのだろうと思い至りました。
私としてはターゲットの属性の人を手厚くするのはマーケティング戦略の一つだと思っているので特に不公平だとは思いません。もし「女性割引」が不公平だと思うのであればその業界に対して男性が女性よりもお金を落とすようにすればいいのです。
 
ダークな雰囲気の作品が好きな方であれば楽しめると思います。

矢樹純 残星を抱く

矢樹純 「残星を抱く」
矢樹さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 


主人公の女性は複数人で男性を暴行している現場を目撃して自宅まで逃げ帰ってきた。刑事である夫に相談しようか躊躇っていると、ポストに先の件を示唆する脅迫状が届いていた。その後二通目の脅迫状が来た際に、夫が自殺に見せかけて殺害されてしまう。同僚の話から夫は非番の時に20年前に彼女の父が死亡した事故を独自に調べていたと判明する、というお話。
 
ミステリー系の作品となります。検察官、探偵、刺青を入れた男など接触してくる人物がどれも怪しく誰が本当の味方なのか?と常にハラハラしながら楽しめる作品です。終盤には驚きの展開がいくつもあって最後まで飽きずに読めました。真相を考えながら読んでも良いですし、特に考えずに読んでも楽しめると思います。
本作ではミステリー以外にも力が入っている部分がありまして、それは戦闘と逃走シーンです。主人公の女性が元陸上部かつ柔道経験者と設定されているために追跡者から逃走する、遭遇して戦うシーンが何度かあって描写が映画のような迫力で面白いです。この部分も見所の一つとなっていると思います。
 
作中にて主人公の女性が双子の兄が死産し自分が産まれたせいで周りに迷惑をかけている、と悩んでいるシーンがありました。自分が生きている意味を悩むのは誰しもあることだとは思いますが、子供の時ならまだしも大人になってから悩むことではないと私は考えています。
子供というのは嫌な言い方をすると親などの保護者に生かされている状態です。その状態の時は自分の命を自由に扱えない期間なので「自分が生きているせいで」と悩むのはよくある話なので問題ないと思います。大人になったら自分の命をどうするかは自分で決められるので「産まれたせいで」と考えたところで意味があるとは思えません。本気で考えるとしてもそれに対してのアクションは今から挽回する方法を考えるか、損を増やさないために自殺するかの二択しかないので速やかに選ぶだけです。残念なことですが大人の命は子供と違って将来性も低く死んでしまって問題ないくらい軽いのが実情です。そのため生きる気力を保ち続けるにはそこそこの強い意志が必要となります。おそらく家庭や子を持った方がいいと言われるのはこの意志を持ち続けるためというのもあるでしょう。
 
作中にて夫が非番の日に何かしているのを主人公が疑問視するシーンにて、夫は「私を疑っているのか?」と言って主人公を失望させるというやり取りがありました。
日常生活でも問い詰められたりしたときにこの言葉を言う人がいますがこれは一種の脅しだと考えています。上記のシーンだと「私を疑うあなたに非がある」というニュアンスで言っていることになります。やましいことをしてないなら素直に答えるだけですので、この言葉が出てくる時点で何か疑われることをしているのは明白です。その上で相手側を悪人に仕立て上げようという魂胆が見えるため、卑劣な人であることは明らかです。似た言葉で「私がそんなやましいこと考えていると思っているのか?」などもありますので、この類の言葉を発する人がいたら即刻縁を切るようにしています。
 
矢樹さんの作品は面白いものが多いので気になる方は読んでみてください。

 

村崎友 風琴密室

村崎友 「風琴密室」
あらすじを読んで気になったので読んでみました。
 


とある片田舎に住む高校生が廃校になった母校の掃除をしていた。そこに二人の女子高校生が訪ねてきたのだが、その一人はかつて小学校で主人公と同級生だった子であった。しかし彼女が引っ越すときに水難事故で友人が亡くなっていたために彼女と対面しても悲痛なことを思い出すばかりであった。その夜皆で廃校にそのまま泊まることにしたのだが、翌朝に幼馴染の一人がプールで死亡しているのが見つかるというお話。
 
これは読まなくていい作品です。全体を通して描写が分かりづらくミステリーとして面白さがありません。現場の部屋や廃校全体が頭にイメージ出来ず推理もままなりません。真相を知っても分かりづらく書いて誤魔化した印象になり納得感も驚きもありませんでした。密室を売りにするならせめて現場の図解を入れたりしてもっと読者に情報が伝わるようにして欲しかった。しかも全体的に描写はわかりにくいのに犯人だけは丸わかりでした。
動機についても取って付けたようなものなので何も面白味がありません。子供はしょうもない理由で行動しがちなのを描写したかったのかもしれませんが、ミステリーと銘打つのですからそこはちゃんとしてないと納得出来ません。
ミステリー以外の部分についても面白い部分は見当たりませんでした。結末のところで明らかになる真相があるのですが、お遊び程度なので期待はしなくていいです。
 
良い部分が見つからなかったので人には薦めません。