花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

未須本有生 天空の密室

未須本有生「天空の密室」
少し前に開発中の空飛ぶ車をテレビで見て、かっこいいなーと思っていた時に見かけた作品。
 


高層ビルの屋上階段にてバラバラにされた遺体が発見された。現場の高層ビルの状況から考えるとビル内から屋上へ向かうことは出来ず、犯人は空から遺体を運び入れたと見るしかなかった。
一方である部品メーカーではエアモービルという空飛ぶクルマの試作機を開発していた。誰でも乗れることを目指してさらなる試験飛行の許可を求めたが国の担当者は理不尽な要求をするばかりで一向に前進しなくなってしまった、というお話。
 
空飛ぶクルマの開発を題材としたミステリー作品となります。
テレビで見たのと同じような大型ドローンのような形をした空飛ぶクルマの開発についても細かく書かれています。著者は航空機の設計に携わっていた経歴があるそうなので技術面の説明はとても分かりやすかった。そもそも空を飛ぶ乗り物を開発するときにどういった点が難しいのか?ほかの乗り物と何が違うのかといった点は読んでいてためになり面白かったです。
ミステリーとしてはどうかというと空飛ぶクルマを使って密室を作るにはどうするか、という物珍しさもあって面白く書かれています。自分で推理する場合は上に書いた技術面の説明を理解する必要があるので、推理したい人は頑張って理解しましょう。結末のまとめかたが少々雑な感じがするなど粗い部分はありますが作家が本職でないことを考えると上手く書かれていると思います。
 
作中にて安全性が高いと保証される機器は最新のものではない、という意見がありました。安全性の高さを保証するには故障なしで長時間稼働した実績が必要なので安全性が最優先な空の乗り物の機器が最新であるはずがないというものでした。
色々なところで使える良い考え方だと思いました。メーカーが出してくる耐久性の性能は都合のいいテストしかしていない可能性があるのであまり信用しない方が良いと私も考えています。本や映画の感想のような感性によるものやお金で買収できるネットのレビューと違って安全性は数字で露骨に出てくる指標なので信頼を勝ち取ると大きな優位になるでしょう。そう考えると高価な最新機器を積極的に買って使う人々はとても勇敢な人たちということになりますね。私も評価が出る前に新刊買ったりするのでちょっとした勇者なのかもしれません。
 
最新の空飛ぶクルマってどんなものなのだろう、と気になる方はぜひ読んでみてください。

水生大海 最後のページをめくるまで

水生大海 「最後のページをめくるまで」
タイトルが気になって買ってみました。
 

 
こちらはミステリー短編集となっています。タイトルの通りどの章も結末に重点を置いていて予期せぬ真相や展開が待っているというものです。結末も種類が色々とあって順当に驚かされるものから力が抜けてしまうようなものまであり楽しめました。
ミステリーとしてみても各章の短さに対して良く出来ています。伏線のつなぎ方も上手いので自分で結末を推理してみても良いと思います。
 
作中の一つの章で「使い勝手のいい女」と陰で言われている女性が主人公になっていました。バイト先でシフトを快く変わってくれたり、自宅に押し掛けても無下に追い返したりしないという人柄からそう自覚しているとのことでした。
私自身も使い勝手がいい人間だと自覚がありますが「使い勝手がいい人」は悪い特徴ではないと思っています。「使い勝手がいい」とは雑に扱っても機嫌を損ねず、リアクションが早い人のことを指しています。若い世代の方はこの特徴を侮辱だと感じるでしょうけど社会人になるとこれを兼ね備えている人は非常に貴重です。年齢を重ねると体調が安定しなくなったり抱える不安要素の数が多くなったりすることで、この二つの要素はどんどん悪くなって使い勝手の悪い人間になってしまうのが普通です。という点から歳を重ねても使い勝手の良い人を継続できる人は努力の賜物ですので誇っていいでしょう。悪意を持って利用しようと近づいてくる人は排除することだけ気を付ければ使い勝手の良い社会人は快適です。
 
自力で推理するもよし、雰囲気を楽しむもよしという内容でした。気になる方はチェックしてみてください。

白井智之 死体の汁を啜れ

白井智之 「死体の汁を啜れ」
白井さんの作品で面白そうなものを見つけたので読んでみました。

 

 
どの事件も遺体に猟奇的な特徴がありしがない推理作家が真相を探るという短編集になっています。猟奇殺人のはずなのですが作品の雰囲気が全体的にコミカルに出来ているため、グロテスクな感じがあまりせず読みやすいです。
ミステリーとしてみると各章の事件の謎は手短ながらも質が高いので自分で考えて解いても面白いと思います。各事件の状況からどうやったら殺害できるかを考えるという閃きの要素が強い内容なので謎解きみたいで楽しいでしょう。
 
作中にて登場人物の推理作家が「ミステリーは誰でも人を殺せる前提だから成り立っている」という話をするシーンがありました。殺人とは体格もよくて凶行に耐えられる強靭な精神をもっていないとだめなので、現実的にすると登場人物全員屈強な人になってしまうという意見でした。
この考え方は面白いなと思いました。人里離れた屋敷に閉じ込められた、なんてシチュエーションでその場で殺人事件を起こそうとしたら体格だけで犯人絞れてしまうという感じでしょうか。体格を考慮しない殺人だけにしようとしたら凶器が薬品くらいしか残らないのでものすごく地味なミステリー作品になるでしょうね。
 
タイトルは不気味な感じですが内容は読みやすいので気になる方は気軽に手に取ってみてください。