花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

鴨崎暖炉 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック

鴨崎暖炉 「密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック」
書店で見かけて面白そうだったので買ってみました。

 

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殺害に使われた密室が解けなかったために被疑者に犯行が不可能として無罪となる判例が出た。それにより密室殺人を成功させれば罪にならないとして世間では密室殺人ブームとなっており、密室の考案や殺人を請け負う「密室使い」や密室を解く専門の探偵といったものも登場していた。そんな中でミステリー作家の残した館にて密室殺人が発生する。現場に残っていた物品から密室使いによる犯行と判明し、次々と起こる密室殺人事件を解くというお話。
 
密室の謎を解くことに特化したミステリー小説です。2021年の「このミステリーがすごい!」で文庫グランプリに選ばれた作品となります。
実行するメリットがないと現実では言われる密室殺人にやる意味を持たせる世界観を作ったところが上手いです。この設定であれば犯人がバレバレでも密室が破られなければ良いのですからみんなチャレンジするだろうと納得してしまいました。
ミステリー部分は数々の密室を解く部分なのですが、どれも面白く出来ています。凝った仕掛けというよりも閃き重視の謎が多く、作中の説明からアイディアを捻りだすような推理が必要になります。謎解きゲームをしているような感覚で楽しめるので気を張らず考えられるのが良いと思います。
また作中では密室についての歴史や知識が多く説明されています。謎を解くにあたってのルール説明も兼ねているのだと思いますが、知らなかったことが多くあったので読んでいたためになりました。
 
謎解きが好きな方には楽しめる内容になっているのでおススメです。

遠田潤子 ドライブインまほろば

遠田潤子 「ドライブインまほろば」
遠田さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 

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主人公の少年は母の再婚相手を殺害してしまう。血のつながった子である自分よりも夫の味方となった母に絶望し、義父の双子の兄に殺されないために妹を連れて逃げることとなる。一方で山沿いにある「ドライブインまほろば」の女性店主は娘を事故で失ったことで母親と折り合いがつかずにいた。あるとき幼い妹を連れた少年が店に現れ夏休みの間だけ置いて欲しいと頼まれる。二人を受け入れたその夜に少年は義父を殺して逃げてきたと告白し生きる資格がないと吐露する、というお話。
 
生きる資格をテーマにした作品となっています。
両親から見放された上に殺人までしてしまった少年が女性店主と過ごすことで何のために生きるのかを悩み、前に進もうとする姿は感動的でした。少年に対して子を失った母親、望んでいないのに子が産まれてしまった男性といった立場の違う人々から見てどう映るのかも繊細に描かれていて読んでいて惹かれるものがありました。
また本作には家族を断ち切ることについて多く描写があります。血のつながりがあってもそれが生きる上で障害になるなら覚悟を持って断ち切ることも必要、ということを伝えようとしていると読み取れました。今は家族という集合よりも個の幸せを追求する時代になっていると私は思っているので、こういった描写は今の時代には刺さるところはあるでしょう。
 
作中にて少年がどれだけ理不尽な目にあっても正しいことを通そうとする姿勢を見て母親と義父が腹を立てるシーンがありました。本作の心理描写によると自分は正しいことが何か分かっていると毅然としている態度が癪なのだそうです。
私にとってこれは今まで何度も見てきたシーンでした。私の中ではこの類の人を「こそこそルールを破る人」と分類していたのですが、今まで生きてきて私に攻撃をしてきた人物の類がこれだからです。ということもあって戦わなければならない宿敵の心理を知れて有意義でした。
ただ、私は既に大人なので戦えますが、子供にとっては辛いでしょう。いい子にしていても怒られ、かといって悪いことはしたくないという状態になり想像するだけで可哀そうです。一緒にいても不幸になるだけの家族を断ち切る手段はもっと多くあっても良いと私も考えています。
 
これはお子さんがいる方々に是非読んでみていただきたいです。

篠田節子 鏡の背面

篠田節子 「鏡の背面」
コミュニティで薦められていたので読んでみました。
 

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何らかの依存症によって生活が成り立たなくなった女性たちが支えあって暮らす施設で火災が発生し、施設のリーダーの女性が死亡した。皆から慕われていた彼女であったが、遺体を調べた警察から別人であると報告される。しかも遺体と一致した人物は過去に殺人事件の容疑者となっていたため、施設の女性たちは困惑し始める。過去に彼女を取材した記者と共に成り代わりの真相を探るというお話。
 
依存症の女性たちを描いたミステリーとなります。
本作は私には合いませんでした。理由は膨大なページ数のわりに脇道の話の描写にページを割きすぎているからです。本作は600を超える長さではありますが、依存症女性が施設にやってきた背景や人物の生い立ち(設定)の詳細など本線の話に関係ないことが半分以上を占めているからです。私はこういった手法でのページの嵩増しは嫌いなので早く本編を進めて欲しいと思いながら読んでいました。おそらく無駄な描写を削ったら250ページくらいの作品になるでしょう。
依存症女性の実態を知ってほしいと願って著者は細かに描いたのかもしれませんが、それを読みたくて本書を買ったわけではありません。これで賞が取れるということは、読書が好きな方々は何らかの依存症を抱えている人が多くて共感する人が多いのかもしれません。
 
評価が高い作品でしたが私には楽しめる内容ではありませんでした。
背景描写が細かいのが好きという方であれば楽しめると思います。