花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

斎藤孝 頭の良さとは「説明力」だ

斎藤孝 頭の良さとは「説明力」だ
今回は貰い物の自己啓発本です

 

f:id:flower_bookmark:20200816121702j:plain



 
「3分だけ時間をください」と言われて本当に3分で説明が終わったらスゴイと思いますよね。そうなるための説明のポイントと組み立て方が書かれています。
大項目は以下のようになっています
・知的な説明力とは何か
・説明の組み立て方
・説明力アップの訓練方法
・応用テクニック
説明についての本なだけあって無駄なく簡潔にまとめられているので非常に分かりやすいです。これで解説が長々と書いてあったらどうしようかと思いました(笑)。「説明が上手い」と印象付く仕組みの説明からすぐに実施できる実用的なテクニックまで書かれているのでためになることが幅広く紹介されています。
人に何かを説明する場面は社会人なら避けられないため説明が上手いと良い強みになります。特に最近ではコロナの影響によりリモートで取引先に説明するために実物を思ったように見せられないケースも増えているので、より説明力が求められるのではないでしょうか。
 
作中で「最近何かあった?」に上手く返答出来る人は説明力が高い、と書かれていました。
雑談の切り出しによくあるフレーズですが苦手とする人がとても多いそうです。この聞かれ方だったら何の話をしてもいいと思っています。とりあえず話を出しておき、広がりそうな種を見つけていけばしばらく雑談できるという算段です。
ただしこれとは別の問題がありまして、聞いてきた相手が話しを広げる努力をしない場合は非常に困ります。話が終わったら「他には?」と来て別の話をしないといけないのでまるでテレビになった気分になります。特に「何か楽しい話して」と切り出されたら楽しさまで要求されるので最悪です。相手にも同じように聞く手段もあるのですが、この困ったケースのときは「こっちにないから聞いている」とたいてい言われてしまいます。
自分がされると苦しいので人の話を聞いているときは自分の引き出しに引っかかるワードを見つけようと努力するようにしています。
 
もう一つ気になったのが、納得感を出すために例え話が有効と書かれていました。
最近ツイッターで何かの事象を別の例を出して「これと同じだぞ」と話しているのをよく見ます。例え話は「私はこれと同じ価値観でみています」を主張しているだけだと私は考えています。ツイッターは遊びなので説明を求めるのも野暮ですが、真に受けて自分の価値観が間違っているのかとショックを受ける方もいるようです。それが大事だと思う人は尊い雰囲気の例を引き合いにしますし、くだらないと思う人は不毛な雰囲気の例を使うでしょう。賛同する人が多くいてもそれが世間の常識とか正しい意見とか思うことはない、というのが私の意見です。
 
書かれているテクニックでそのまま書いてくれているので納得感のある作品でした。

まさきとしか 大人になれない

まさきとしか 「大人になれない」
概要を読んで気になったため読んでみました。
 

f:id:flower_bookmark:20200810171640j:plain

母親に捨てられた小学生が親戚の家で暮らすことになった。その家には無職の中年、引きこもり、毒親など早熟な少年から見ると生きている価値を感じられない人々ばかりであった。しかし自身も親から捨てられた身のため自分に生きている価値があるのかと悩み続けていた。それぞれが今の状況から何とかして前に進もうとする姿を描いたお話。
 
生きている価値をテーマにした作品です。
子供目線で投げかけることで大人たちに生きている意味について考えさせる形式でそれぞれの人物の内面を深堀しています。それぞれの人物もかつて輝かしい時期がありつつも居候になっているため、プライドなど過去のしがらみと向き合う姿はかなりリアルでした。
「生きている価値がない」と言われたら誰しも多少狼狽えてしまうところですが、自分はどうだろうかと思わず考えてしまいました。大人同士で言われたら険悪になりそうですが子供からとすることで上手く緩和されています。
帯にはミステリーと題されていますがミステリー要素は終盤に少しあるくらいです。話をおもしろく進めるために添えてあると考えるとよいと思います。
 
作中では「あなたに生きている価値はない」というセリフが多用されています。
本書では子供が大人に向かって言い放っていますが大人が使うと品性がないと言われていました。この意見は正しいと思いますが問題は別のところにもあり、そうだと知っている大人がそれを言うほどの何かが起きていることに大人としてちゃんと目を向けなくてはいけません。私も今の会社で最初に配属された部署で先輩から「辞めるか自殺するか選べ」と言われたことがありました。ここだけ聞くとブラック企業のように聞こえますが、その当時聞いてまわったときに同じ経験をした人が一人もいなかったのを考えると私がいかに人として規格外なほど社員として問題があったかが分かります。そういうわけで私は暴言のような言葉を聞いた時には理性が効かなくなるほどの事態があったのだろうと考えて行動するようにしています。
ただし、上記はあくまで「社会人として」の判断であり人間の尊厳とは別です。人間として対等な観点ならば他人に死を要求するのであれば逆側から死を要求される覚悟も持って然るべき。当時の私はこちらの考えが強くなりどちらかが死ぬまで戦う態勢になってしまったために色んな所に迷惑をかけてしまいました。私は今の会社以外を知りませんが会社での実力と人間としての序列を混同する方は非常に多い。こういった事例ははるか古代から存在するため私が生きている間に進歩しないでしょうから、自身が穢れないように努めるのみだと思います。
 
作中の人物たちが過去の栄光からなかなか抜けられないという描写が多く出てきます。
過去の栄光と聞くと縋り付いている人を思い浮かべてしまい悪いイメージの言葉ですが、現在の自分につながっているのであれば良いと思います。出来事の善し悪しがどちらにしてもそれを機に今のこの考え方をするようになった、今も関係が続いているなどがあれば持っていた方が良い思い出だと考えています。そういったものが積み重なることで人間性が深くなっていくような気がするので、栄光ばかりでなく悪くても自分にとってプラスになった出来事を話せばお酒の席も盛り上がるかもしれません。
 
私個人として読んだ後に色々と考えるところのある作品でした。

遠田潤子 冬雷

遠田潤子 「冬雷」
面白いからと譲ってもらった作品を読んでみました。
 

f:id:flower_bookmark:20200808124156j:plain

主人公は鷹匠をしている男性。行方不明になっていた義弟の遺体が発見されたためにかつて孤児だった自分を引き取っていた家を訪れる。彼は伝統ある家の跡取りになるために夫婦に引き取られたが義弟が生まれたことで疎まれ始め、行方不明になった義弟を殺した犯人として追い出された過去があった。真犯人を探そうとするが、古くからの家と風習を守りたいがために町の人々は誰も協力しようとしない。かつて親しかった人々にも疎まれながら真相を探るというお話。
 
昔からの風習を重んじる町を舞台にしたミステリー小説です。
脅迫に近い形で風習を守ろうとする片田舎の不気味さが上手く描かれています。それもあってか登場人物は陰湿で身勝手な人々ばかりになっています。各地の伝統的な行事も見に行くだけなら素敵ですが、こういったものが裏に隠れているのかもしれないと想像してしまいます。人物の描写は不快な部分が多いですが、主人公が誠実な性格をしているために損をしたり救われたりする部分があるためそこまで嫌な気持ちにはならずに読み進められます。
ミステリーとしてみても良く出来ています。終盤で明かされる真相はちりばめられていたものが上手くつながるので驚きました。ここでも風習を守るためという設定が上手く使われているので面白かったです。
 
作中にて「誠実さは負け戦にしかならない」という言葉が出てきます。
誠実でいても不利な状況が続くだけ、を意味した言い方なのですが正しいと思います。誠実さは私も大事にしてずっと生きていますが、それで何か得をしたり有利な状態を作れたりなど実益のプラスが出たことは今までありません。プラスがないためいつでもイーブンか損のどちらかです。
ただこれは誠実さだけで見た時の話であって、他の性格と合わせれば一つ上の性格に押し上げることが出来ます。正義感と合わせれば清廉に、地道と合わせれば不屈にと希少な性格を作ることが出来ます。希少さに着目する人はいつの時代でも一定数いるので私のような実能力が低い人は希少さを持つことで世を渡り歩くのは良い手段だと思っています。
 
舞台が伝統を重んじる街なため未熟な主人公に対して「自覚が足りない」という言葉が多く出てきます。
この「自覚が足りない」という責め方は今の時代では無意味だと考えています。私も社会人になってからこの叱責を何度か受けたことがありますが、突き詰めてみると「君は私がこだわっている個所に注力してない」と言っているだけでした。つまり善し悪しではなく自分と同じじゃないから気に入らないとアピールする手段でしかない。多様性の時代でこの考え方は邪魔でしかなく、注視する場所の違う人たちが集まってこそアイディアなどが出てくると思っています。
作中のような古くからの風習で人々の求めるものが未来永劫変わらないのであれば固定した自覚はあって然るべきですが、普通の社会人であればそんなものは不要でしょう。
 
初めて読む作家さんだったので他の作品も読んでみようと思います。