花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

吉川英梨 雨に消えた向日葵

吉川英梨 「雨に消えた向日葵」
あらすじを読んで気になったので読んでみました。
 

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小学生女子が雨の日に行方不明になった。その少女は同年代で知らぬ人はいないほどの美少女であり、捜索中にもその容姿から妬みの混じった声が多く聞こえるほどであった。行方知れずになってから日が経っても有力な情報がなく捜査は難航する、というお話。
 
刑事物好きな人以外は読まなくていいと思います。あらすじと帯を見ると社会問題を書いていそうだったのですが蓋を開けてみたら平凡な刑事物でした。
帯に「露わになる人間の本性」と書いてあったのですが、人間の汚い部分がほんの少し書かれているだけで深堀もされず被害者が美少女だからで概ね片付けられています。「見つけなきゃ家族が死ぬ」と書いてあったので被害者家族側の崩壊などを書いていくのかと思いきや特に何も起きなかったりと、平凡な内容を何とかして誇張表現しているとしか感じませんでした。
 
刑事物にはしばらく手を出さないようにしようかな

月原渉 犬神館の殺人

月原渉 「犬神館の殺人」
以前から気になっていたけど後回しになっていた作品にようやく手が付けられました。
 

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犬神館にてある儀式が行われていた。その儀式は外部からの妨害を阻止するために扉を開けると中にいる参加者が死亡する仕掛けになっている。「人殺してまで立ち入ろうとすることは出来ない」という心理的な密室を作っていたが、儀式の参加者全員が死亡する事件が発生する。外で見ていた使用人によると3年前に別の場所で同じ儀式と事件が起きたという。
3年前と同じ密室構造、どちらにも居合わせた使用人と鏡花という名の指導者、などの謎を探るお話。
 
2つの同じ構造の密室事件を解くミステリー小説です。
密室がメインとなっているため緻密に推理する路線かと思ったのですが、「心理的な」密室なので斬新な内容になっていて面白い。また心理面での推理も多く必要になるため推理の難易度も高めになっています。なお真相は違うと先に明言されているので一つの問題に二つ回答を出すことになります。推理しながら読んでもいいですし、読み物として見ても楽しめる内容だと思います。
 
推理物が好きな方なら楽しめる作品となっています。

染井為人 悪い夏

染井為人 「悪い夏」
以前読んだ「正体」が面白かったので別の作品を読んでみました。
 

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主人公は生活保護受給者を担当する職員。自身の担当する受給者はいずれも言い訳ばかりでまっとうに生活しようとせず滅入る日々であった。あるとき同僚が給付停止をネタに受給者を脅迫していることを知る。真相を探るために調べていると他の受給者など社会の最底辺で暮らす人々がヤクザと関わっている事件に巻き込まれていくことになる、というお話。
 
生活保護をテーマにした作品となります。
生活保護をもらうまでの難しさを描いている他の作品を読んだことがありますが、こちらは不正に近い状態で生活保護をもらっている人を中心に描かれています。不正しているといえど生活が困窮している姿は本物で、貧困が様々な悪事につながっていることをリアルに描いています。もしかしたらこちらが本題だったのかもしれません。
ミステリーとしてみると伏線のつなぎ方が非常に上手いです。終盤にかけての展開を読むとあれってここにつながっているのか、と驚かされました。隠れている謎を解明する話ではないので推理しながら読む必要はありません。
 
作中にて生活保護を受けるほど弱い人間を攻撃して楽しいか?と疑問を投げかける場面があります。
はっきり言うとほとんどの人は弱い人間を痛めつけて楽しいと感じます。普段は表に出ませんが余裕がなくなり理性で抑えられなくなると誰しもそうなります。昔から変わらない人間の性だというのはもう周知の事実なので、それを知った上で弱いままで強くなろうとしない方に問題があると私は思っています。
弱い人を守るのは良いことですが見返りもなく守り続けるほど常に余裕のある人はいません。なのでその人が守ってくれる期間中に強くならないといけません。この時にずっと守ってもらえると勘違いして努力をしない人が多い。しかもその後に「今まで守ってくれてありがとう」ではなく「見捨てられた」と文句を言う人ばかりが目立つために弱い人を守るのは損だと感じる人が増えたと私は考えています。守るのをやめた方は何も悪くなくて、強くならないあるいは弱いままでいるなら長く守ってもらえるように努力しなかった人が悪い。
無償で人々をずっと守れるのはフィクションの中のヒーローだけです。
 
生活保護に関する考え方が多く出てくる作品ですので読むとためになると思います。