花の本棚

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押川剛 「子どもを殺してください」という親たち

押川剛 「「子どもを殺してください」という親たち」

表紙を見て思わず手に取ってしまった一冊。タイトルからしてギョッとする。



著者は精神を病んだ人を説得して医療につなげる仕事をしている人物で、家族ですら手が打てない状態になった患者を何人も相手にしてきたスペシャリスト。
その事例の中から育児の失敗から発生したものを選りすぐってを書いたノンフィクションのドキュメントです。

生々しくてゾッとするようなケースばかりでした。ケースのほとんどが親が60~70代で子が30~40代というものばかりで、年齢関係だけなら自分が同じ状況になるのもそう遠くないと思えました。
近年では殺人事件のうち過半数の53%が血縁関係者間で起きているそうです。家族間の事件が多いとは思ってましたが数字で出されると衝撃的ですね。それだけ家族間での揉め事が多い時代になっているということです。ストレス社会と言われて他人とのやり取りも厄介なものになろうとしているのに家の中ですら安らぎが無い人が増えているとは。

どのケースにも共通しているのは親が年を取って肉体が弱り始めたところに子が幼少期に受けた親への不満をぶつけているという点です。本当なら家族というのはパワーバランスが崩れたときのことまで考えるものではないのですが、家族の人間力・親力が低いとそれを機に崩壊して子どもが仕返しを始めることもある。私の家族ではそんな気配すらなかったのでこういったケースがあるのを見てまたもや衝撃的でした。

この本一冊だけでも多くの問題を取り扱っていて全部は書けないので一つだけ私の思ったことを書きます。それは家族と縁を切ることについてです。
家族と完全に縁を切る手段がないのも問題だと私は考えてます。今のところ家族から完全に離れられる手段は死別のみになります。唯一の手段がすでに禁じ手なわけですから極限状態になるまでは我慢する以外に手段なしということになります。あまりに簡単に縁が切れるようになったらそれも問題ですが、現状の犯罪者や死人が出そうな状態に比べたらマシにはなるかもしれない。
時代が移り変わって家族の在り方が変わってきたのなら、それに合わせた対策や手段がないといけません。今は家族という組織の幸せよりも一人の個の幸せを追及する時代に傾いてきてるので、もはや家族という単位で物事を考えることが古い考えになっているのかもしれません。悲しいことですけど。

日本の精神病人の数はこれから先どんどん増えていくと見られているのでこの本は一読の価値あると思います。載ってるケースは本当に最悪に近いものですが、この先いつ誰にでも訪れる可能性のある事例になり得る、かもしれない