花の本棚

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久坂部羊 反社会品

久坂部羊「反社会品」



医療系の短編集です。7つの話が入っていて、前半3つは「今ある社会問題が悪化したらこんな未来になる」というSF世界のお話。後半4つは現代でもありそうな医療系のサスペンスなお話です。
前半と後半で毛色の違う話ですがどちらもリアリティがあります。特に前半の話は遠くない未来に本当に来そうな、むしろ一部の場所ではもうそうなっているのではと思えるような内容です。

どの話も面白いところはあるのですが、全部書くと長いので一番印象的なものを紹介します。
一番印象的なのは「心の病気になった人を甘えだと弾圧する世界」でした。弱い人を攻撃してストレスを発散しようという心理は誰にでもあると本書には書かれていました。支えるべき弱さと甘えをどう区別するのかを考えさせられました。「攻撃しても周囲から避難されない弱さを甘えと呼んで攻撃している」というのが私の見解です。

もう一つ思ったのは精神的疾患が甘えで肉体的疾患がそうでないと扱われるのかが疑問でした。肉体の弱りは誰にでも来るから、と言いますが精神疾患もいつ誰に来るか分からない病気になりつつあります。肉体の疾患にしても今の時代は健康法はいくらでもあり、ネットにもたくさん載っているのですから、その努力を怠って病気になるのも一つの甘えとも言えてしまいます。
甘えのもう一つの見解は「自分が納得できない弱さ」なのではないかと思っています。つまり甘えという言葉は個人の感想の域でしかないので、「トマトが嫌い」などと同レベルで酷い言葉ではないということです。こう考えると言われてもあまり気にしなくて良さそうですね。

久坂部さんの本は問題作もありますが独特のリアリティがあって気に入ってます。