花の本棚

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小林由香 ジャッジメント

小林由香 「ジャッジメント

本屋で平積みされていて、概要が気になったので読んでみました。



加害者に対して被害者がされたことと同じことを合法的に行う「復讐法」が制定されている世界のお話です。主人公は報復監視官という復讐が正しく行われているか監視する役割の人です。
よく「犯人に対して同じ苦しみを味あわせたい」という話がありますが、それがもし合法的にできるようになったらどうなるか、本当にそれで被害者遺族は救われるのか、というお話です。

これは人によっては胸焼けしそうな内容です。中身は短編集なのですがそれぞれにインパクトを持たせるために加害者の犯行内容がヘビー。全部で250ページくらいなのですが読み終わりまで長く感じました。

私は復讐法のシステムには大いに賛成です。理由は簡単で「自分がされて嫌なことは人にしないはず」と考えているので同じことをやり返すという基準が守られるなら文句は何もありません。本書では殺人などの重い刑罰しかテーマになっていませんでしたが、ぜひ暴行罪や精神的なパワハラといったものにも適用してもらいたい。

復讐法について色々考えを巡らせたのですが、全部書くと長いので良い点と悪い点を一個づつ。
良いと思ったのは被害者遺族に選択肢が与えられることです。本書の設定では裁判で下した判決と復讐のどちらを選ぶかを指名された被害者の関係者が選択します。現状の裁判は被害者遺族を度外視しずぎているという問題があるのでこれが解決策になるかもしれません。
悪い点は復讐が出来るようになったとして、実際に手を下せる人はあまりいないということです。死刑のように執行官がいるなら気が楽なのでほぼ全員復讐を選ぶと思いますが、本書の設定では被害者遺族が直接手を下すことになっています。テレビなどで「殺してやりたい」と言っている遺族がいますが、実際のところ99%はハッタリだと思ってます、そう言っていないと心が持たないというのもあるでしょう。殺人などといった行為は極限の精神状態にならないとできない行為なので、その状態になるまでとても長い年月の追い込みが必要です。被害者遺族というのがそういう状態になってしまうものだというのであれば、復讐法は問題なく機能すると思います

調べてみたら、著者はこれがデビュー作だとか。社会問題を扱う作品好きなので、私の中で期待できる著者になりました。次の作品が楽しみです。