花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

村田沙耶香 消滅世界

村田沙耶香 「消滅世界」

書店で見かけて世界観が面白そうだったので買ってみた。

 

戦争の結果、男性人口が大幅に減少したために人工授精、出産が急速に発展した世界。科学的な繁殖の方が効率が良いという理由で結婚して子供を作るということをしなくなっていた。そのために家族の概念が無くなり、人間の恋人が不要という考えが広まってアニメキャラと恋人になる人が増加していた。一見狂っているようにも見える世界で青春時代から大人になってまでどう考え方が変わっていくのかを書いているお話です。

 

少子化問題と結婚率低下問題についてSF風に書いている作品です。本書で書かれているほどぶっ飛んだ世界は来ないにしても、近しい状態にはなりえると思います。この作者の世界観はあり得ないはずなのですがもしかしたら実現するかも、という絶妙な生々しさがあります。ファンタジーな作品というと村上春樹がありますが、そんな綺麗ではなくてもっとリアルである種グロテスクな世界でした。そのせいで妙な君の悪さが漂ってくるので、230Pほどでしたが読むのに2週間もかかってしまった。

 

本書の中では、結婚率が低下しているのは結婚のメリットが減っているからだと書いていました。今の社会は結婚せず一人でも問題なく生きられるようになっていると私は思ってます。昔は女性は収入の高い仕事に就けなかったから、男性は家事をしないで仕事をしろという考えから結婚しないと仕事と家庭が両立できませんでした。が、今は女性も男性と同じ仕事に就けますし、家事は便利な家電や代行サービスもあるので結婚しなくても困ることが減っています。
と見ていくと結婚の大きなメリットは子供になるわけですが、この点が人工授精で解決されたら本当に結婚のメリット無くなるかもしれませんね。

 

では人間の絆はどうなのかというと、世間を見るとこちらもかなり希薄になってきていると思っています。SNSなどが発展しているので気軽に自分の気入った人探しができることもあって、とりあえず付き合ってみて気に入らなかったらパッと捨てるのを繰り返し、という感じで人付き合いがかなりインスタントになっています。ただ「自分のことを全部受け止めてくれる人がほしい」先ほどのインスタントさとは対極の絆もほしいという欲求は変わっておらず、今後もきっと変わらない気がするので何らかの形で家族っぽいものは残ると思います。

 

かなり重苦しい作品ではありましたが、内容は良いものでした。芥川賞とった「コンビニ人間」の著者なだけあります。人に勧められるかというとかなり好みが別れそうな作品でした。