花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

山本渉 任せるコツ

山本渉 「任せるコツ」
通勤に使っている電車の広告にこちらが紹介されていて、私の仕事での悩みとマッチしていたので買ってみました。
 


リーダーが部下に仕事を任せるにあたってどういったことを考え、実行するのが良いかを書いています。本書の中ではいかに上手く「丸投げ」するかという言い方をしていました。
これまでの「丸投げ」のやり方は「チョチョっとやれば出来ると依頼の規模を偽る」とか「引き受けざる負えない状況にしてから投げる」といった「いかに相手を騙して/追いつめて やらせるか」が腕の見せ所だったのですが、それでは後々引き受けてもらえなくなり、最悪メンバーがチームを離脱するという事態になるのが現代社会だと本書には書かれていました。
大項目と一言でのまとめは以下となります。
Part1 任せ方のコツ
・どう頼むか
 受ける側の「意欲」が湧くような頼み方をする
・誰に頼むか
 最重要。担当や頼みやすさではなく「意欲」と「適正」で決める
・頼む前後
 前は↑に書いた項目。後は終わった後の感謝とフィードバックのこと
Part 2 「丸受け」できる人材の育て方
・育て方
 自分のコピーを作ろうとしてはいけない。自分が気になる細かい部分を指摘して直させる、はやってはいけない。
・褒める
 「受けてくれる」のだからやってくれたら基本的に褒める以外ない
・モチベーションの上げ方
 「任せる」だけでモチベーションは上がる。むしろリーダーが我慢しきれず下げるアクションをしてしまわないようにする方が重要
といった内容です。
 
本書の冒頭に大前提として「受ける側はすべての仕事を面倒だと思っていると考えろ」と書いてありました。この大前提がある上でどうやって受ける側に意欲を持ってもらうか、というがポイントのようでした。受ける側の年代の方々の価値観の傾向も踏まえて考え方や手法が書かれているため、今の社会人の価値観を知るという意味でもためになる内容でしょう。
また基本的にはリーダーから仕事を依頼するというケースで書いていますが、業務配慮やリモートワーク拡張によって出社している人に頼みごとをする、というようなパターンでも活かせる内容だと思っています。他にも自分から仕事を取りに行ってみたら想定より規模が大きいと分かった→引き取ったのはあなたなんだからそのままやって、という態度を取ってしまうと結果として最初に書いた「騙してやらされる」のと同じ状況になってしまうのだろうから気を付けた方が良いな、なんてことも考えました。
私の立場だと仕事を受ける側になることが多いのですが、任された仕事に対して「それだったら自分でやれ」と不機嫌になること今年度は多くありました。本書を読んで投げてくる側の考え方を知れば改善できるかもと考えた結果、ためになる内容が書かれていたので来年度はもう少し機嫌良く仕事できる、かもしれません。 
内容としても軽めに書かれているので、気になる方はチェックしてみてください。

織守きょうや キスに煙

織守きょうや 「キスに煙」
織守さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 



 
主人公は引退した男性フィギュアスケーター。彼は現役の頃に表彰台を競っていた友人でありライバルだった男性に恋心を抱いており、まだ現役選手である彼を陰ながら応援していた。
ある時かつて主人公の恋人であった男性フィギュアスケーターが自宅で転落死したと知らされる。素行が悪く恨みを買いがちだったため、彼は殺されたのではと噂が立ち始める。根も葉もない噂だと思っていたが、その頃から友人の様子が変わったことから自分を守るために彼が殺したのではと疑問に思い始めるというお話。
 
LGBTの恋愛描写をメインにした恋愛物になります。あらすじを見るとミステリーのように見えますが、実際の描写量で見ると恋愛描写がメインのようでした。
心理描写が非常に上手い点が本作の見所です。私自身恋愛物を読みなれてないので具体的にどうと説明が出来ないのですが、メインの登場人物たちの心理描写が非常にきれいに書かれていたように感じました。また主人公を含めて同性愛者が多く登場するという珍しい設定なためLGBTの人がどういった心情で日々を過ごしているのかを知ることができてためになる部分がありました。
ただ、物語として見るとそこまで面白い内容ではありません。転落死の真相も盛り上がりは特にないですし、ストーリー性も恋愛物が好きな人なら楽しめる部分があったかもしれないけど同性愛の描写なので興味ある人はかなり限定されるだろうという印象でした。
 
良い部分もあるので上の紹介を見て気になるようだったら読んでみてもいいですが、無難に行くのであれば他の織守さんの作品を読んだ方が良いでしょう。

荻原麻里 人形島の殺人

荻原麻里 「人形島の殺人」
あらすじを読んで面白そうだったので読んでみました。
 


主人公の幼馴染が突然姿を消した。残された手紙によると彼女は故郷の島へ帰っており、その一族は人形を使った呪術を引き継ぐ末裔とのこと。
彼女の行方を追って島に来たところ崖に吊るされた遺体と遭遇し、それは一族の長女の遺体であると判明する。幼馴染は昨晩からいなくなっており長女を殺害した犯人だと一族の者たちが決めつけていることから、主人公が彼女と共謀していると疑われてしまうというお話。
 
オカルト系のミステリー作品となります。本作はシリーズものなのですが、知らずに最新刊から読んでしまいました。
島の一族が殺害された理由を探っていくのが本作のミステリー部分となります。どういった理由なら説明がつくか、を一族の関係や背景から読み取っていくように読んでみると楽しめるでしょう。幼馴染がなぜ島に戻ったのかという点も事件には絡んでくるのでそこも見所になるかと思います。一方で舞台設定の影響もあって物的な証拠がほとんど出てこないので犯行の方法を推理できないので、そこは好みが分かれるところになりそうです。
一つ気をつけたいのは、ストーリー面で見るとシリーズを読んでいないと分からないところがある点です。主人公と幼馴染の関係性、紹介のない人物が出てくる、など前作を読んでいる前提で書いているようです。前作から読んでいないとダメというほどではありませんが、ちゃんと楽しみたいと考える場合はシリーズの最初から読んでいった方が良いでしょう。

 
作中にて将来災いになるかもしれないなら火種を先んじて消す、という考えのもとに襲撃されるシーンがありました。悪役がやると盛り上がる行動なのですが、これを現実世界に当てはめると「取り越し苦労」という行動になります。
私は取り越し苦労が大嫌いなのですが、行動そのものは非常に強力で使い勝手が良いと思っています。なぜかというと当たっても外れても損害がないからです。具体的に言うと、取り越し苦労が当たったときは「私の言ったとおりになった」といって騒げば自身の知性の高さをアピールでき、仮に外れて追及されても「大事にならなかったのだからいいじゃないか」と言い逃れができます。つまり取り越し苦労はマウントの取り合いにおいて損が絶対ない非常に安定した行動となります。
取り越し苦労はこういった性質なので臆病だけどプライドだけは高い人に愛用されるでしょう。実際に私の職場にも取り越し苦労大好きな同僚が何人かいますが、自分では何もしないのにプライドだけは高くて偉そうという共通点があるので上に書いたことは十中八九当たっていると私は思っています。
 
本作単体でも楽しめますが、気になるという方はシリーズとしてチェックしてみると良いでしょう。