花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

秋尾秋 彼女は二度、殺される

秋尾秋 「彼女は二度、殺される」
このミス大賞2022の隠し玉と帯に書いてあったので買ってみました。

 



 
主人公は傀々裡師という死者を一時的に蘇らせる超能力者。遺族の前で死者を生き返らせて最後の別れの挨拶をさせてあげることを生業としていた。娘を殺害された依頼者の元で彼女を蘇らせる予定だったが、実施直前に遺体が蘇生不可な状態に損壊されてしまう。蘇生により彼女に犯行をバレされるのを恐れた犯人によるものだと推測して事件の真相を探るというお話。
 
こちらはSFミステリーとなります。以前紹介した烏丸尚奇さんの「呪いと殺しは飯のタネ」と同じくこのミス大賞2022の隠し玉と呼ばれている作品です。隠し玉ってたくさんあるの?と思いましたが受賞には及ばなかったけど将来性を感じた作品のことを隠し玉としているようです。
見所はSF設定の使い方が非常に上手いところです。SFなので本作独自の世界観や能力が登場しており、それがミステリーに上手く活かされているため読んでいて面白いです。ミステリーとの絡め方もSFで強引につなげた感じはないので納得感もありました。
推理することもできるようになっているので、推理を頑張りたい方はSF部分の解説も注意深く把握しましょう。
 
作中にて両親に我儘を聞いてもらえる姉と甘やかす両親を嫌悪する弟が出てきました。大人になってもどれくらい我儘を聞いてくれるかで愛情や友情の度合いを確かめようとする人はちらほら見かけるので、子供だけに限った測り方ではなさそうです。
私の考えとしては家族間と他人間では我儘を聞く基準が明確に違うと思っています。家族間は上で書いた愛情の面が強いのは同意します。実際私が家族の我儘を嫌がらない理由が損得によるとは考えにくい。
一方他人間で我儘を聞くのは損得勘定があるからだと考えています。仕事上その人の我儘を聞いて取り入った方が上手くいく、我儘を聞くことでパートナーと楽しい時を過ごせる、など何かしら得るものがないと他人の我儘は聞かないと私は見ています。だからこそ得るものに対して我儘を聞くのが割に合わないと判断されて突然仲違いが起きるのだと思います。
視点を変えると人に何かしら得をさせることができないと我儘は聞いてもらえないということです。他人に対して何かしてあげることがない代わりに他人に対しても我儘を言わないという私のスタイルはたぶん理にかなっているのだろうと思い至りました。
 
続編がつくられそうな感じが見られたので、今後にも期待したい作品でした。気になる方は読んでみてください。

織守きょうや 少女は鳥籠で眠らない

織守きょうや 「少女は鳥籠で眠らない」
織守さんの作品で面白そうなものを見つけたので読んでみました。

 



 
新人弁護士が主人公の短編集となります。案件ごとに章になっていてそれぞれの案件で登場する人物たちには何か隠れた目的があり、それを明らかにしていくという内容です。法律系のミステリーだと法の穴をつくような話は読んだことがあるのですが、本作では法律を利用して目的を達成しようとしているという流れになっているのが特徴であり面白いところだと思います。そういった内容なので法を使ってでも目的を達成したいという「欲しい物が決まっている人の強さと怖さ」がどの章にも上手く描かれているという点も見所だと思います。
本作書くには相当法律に詳しくないと難しいと思ったのですが、織守さんは弁護士をしながら小説を書いている方だそうです。
 
作中にて賛同も理解も得られなくていいと考えている人間の行動は強いけど腹立たしい、と先輩弁護士が言っているシーンがありました。この考えをしている人は目的のために全部を捨てるため、捨てられた友人が傷つくことなどを考えていない点が腹立たしいそうです。
私もこのタイプなのでそれがきちんとできる人は同志として尊敬します。私はここに書いている書評で自分の意見や過去の行動を書いていますが、これらが他人に受け入れられなくても特に問題にしていません。「捨てられたら傷つく」いう意見についても、捨てられないように努力すればいいだけであって捨てた方を非難するのは御門違いでしょう。得たいものに対してどこまで他の物を犠牲にできるか、は人生の中で培ってきた覚悟の強さによると思うので強ければいいとは思っていません。雑な言い方をすれば本人が幸せに生きているのであれば何でもいいのです。
おそらく考えを改めることは今後もないと思いますが、周囲からどう見えているかが分かったので私としては有益でした。
 
法律系のミステリーとしては少々珍しい内容なので気になる方は読んでみてください。

城山真一 看守の信念

城山真一 「看守の信念」
前作の看守の流儀が面白かったので続編を読んでみました。

 



 
刑務所を題材にしたミステリー短編集です。
刑務官の視点で物語が進むのは前作と同様です。前作は受刑者のケアにフォーカスが当たっていたため刑務所内の話が多かったのですが、今回は受刑者と外界のつながりがテーマになっているようでした。
受刑者を受け入れる就職先、外に残してきた未練など出所したあとにまっとうに生きるためにはどうすればいいか、と登場人物たちが考える姿は見所の一つだと思います。
ミステリーとしてみるとかなりうまく作られていると思います。今回は刑務所外の人物も絡んでくるため前作よりも伏線などの幅が広がっていることもあってミステリーに関してはより面白くなっているという印象でした。今作も最後に驚きの展開もあるため、最後まで飽きずに読めると思います。
 
最後に前作「看守の流儀」を読んでからこちらを読む方が楽しめます。具体的にどうつながっているかはネタバレになってしまうため書きませんが、気になる方は順番通りに読んでみてください。