花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

宇佐美まこと 熟れた月

宇佐美まこと 「熟れた月」
宇佐美さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 

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闇金融の女社長、借金まみれで落ちぶれた取り立て屋の男性、貧しい家庭で育った陸上部の高校生、といった何人かの主人公の視点で物語が進みます。すべての主人公に共通しているのはお金によって人生が歪んでしまったという点であり、底辺まで落ちても人生を諦めきれずにいた。別々に進んでいた主人公たちは辿っていくと思いがけないところで繋がっていた、というお話。
 
底辺まで転落してしまった人々の再起をテーマにした作品となります。序盤がお金に対する欲望の話が多かったのでドロドロ系の話に見えましたが、作品通しての本題はこちらでした。どの人物も酷い状況から始まっており、そんな中から再起を決意して動き出すまでの描写はどれも感動的で非常に面白いです。
上でも書きましたが本作ではお金にまつわる話が多く出てきます。主人公たちがバブル時代に起きた異常なお金の動きに翻弄されたこともあり、バブルのときのお金の動きについても描かれています。私はバブル時代のことは話でしか聞いたことがありませんでしたが、この時代に現役だったのが羨ましいと言われる人々がいる一方で本書に書いてあるような狂わされた人々がいると思うと恐ろしい時代だと感じました。
 
宇佐美さんの作品は良いものが多いので、気になる方はぜひ読んでみてください。

長江俊和 掲載禁止

長江俊和 「掲載禁止」
長江さんの出版禁止シリーズが良かったので別の作品を読んでみました。
 

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こちらは出版禁止シリーズとは異なり短編集となります。
登場人物たちには謎が仕掛けられていて、その真相が最後に明らかになるというのが各章の流れになります。短編集なので仕掛けの規模は長編よりもコンパクトになっていますがどれも読み応えがありました。自分で推理せずとも展開が追える規模になっているので伏線を見逃さないように身構える必要がないので気軽に読めます。
 
章の一つにマナーの悪い人を懲らしめる「品格会」がSNSなどで話題になっているという設定の話が出てきました。
法に触れない悪人をやっつける時代劇のような話が好きなのは日本人の気質だと思っています。最近だとウィル・スミスが司会者を殴った話にて司会者が悪いと感じるのは日本人だけという分析が出ていたのも、たぶんこの気質のせいでしょう。私の意見としては賛同されるかよりもやりたいことをやればいいと思っています。上記のウィル・スミスの件でも司会者はあの場であれを言いたくなった、それを聞いたウィル・スミスは殴りたくなった、というそれぞれの人間性の話であって小難しい分析や理解は要らないでしょう。何か行動しようとするときにわざわざ周囲の理解があるかを確認する必要性を感じません。やりたいからやり、その後起こる事に責任を取る、これ以外に考える要素はないでしょう。単純なはずの現象を無駄に複雑化して知識人のように振舞うのはどうにも気に入りません。
 
ミステリーは好きだけど前のページに戻って伏線探したりするのはちょっと…という場合には丁度良いので、気になる方は気軽に手に取ってみてください。

薬丸岳 刑事弁護人

薬丸岳 「刑事弁護人」
薬丸さんの新刊が出ていたので買ってみました。

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主人公の女性弁護士は女性警察官が通っていたホストの男性を殺害した事件の加害者の弁護を担当することになった。同じ事務所の男性弁護士とあたることになったが、加害者自身が主張内容と警察から提示された証拠類の内容が悉く違っていた。そのことを追求すると自分たちに嘘の供述をしたことを認めた上に自分の言うことを信じないなら解任すると言われてしまう。彼女は何を隠そうとして嘘をついているのかを探り事件の真相を明らかにするというお話。
 
犯罪加害者の弁護をテーマにしたミステリー作品となります。
主役の二人の信条が「犯罪加害者の話を聞く味方は弁護士しかいない」と「罪を犯してなお嘘をついて刑を軽くしようとする者を弁護する意味はない」という対立した構図から始まっており、どうやって折り合い付けて二人で弁護していくのかは見ていて面白いです。二人の対立で描いていますがおそらくこれは犯罪加害者に対しての弁護士の理想と厳しい罰を願う世間の声の対立を表していて、薬丸さんはそれを問題視しているように私には読み取れました。
また上記以外にも本作では嘘をつくことについての意見が多く出てきます。それらを書くことで「苦しくても事実から目を背けてはいけない」と伝えたかったのかな、と私には見えました。
 
本作ではなぜ嘘をつくのかについてフォーカスが多く当たっていました。嘘が好きか嫌いかはそれほど重要ではなく、どういった物事において嘘を使おうとするかはその人の価値観が現れると私は考えています。
嘘をつく行為はストレスがかかるというのは周知のことであり、どうでもいいと思っている物事について嘘をつく人はいません。ということは事実そのままよりももっと得をしたいまたは損を抑えたいと考えていない限りは嘘をつかないはずです。なので何に対して嘘をつくかでその人が大事にしている物事が分かると言えます。お金の使い方で価値観が分かるというのはよく聞くように、嘘をつく場面からも価値観が見えると私は思っています。その人にとって重要な物だからこそ嘘を看破したら相手が感情的になるのも当然でしょう。
ちなみに私は嘘をついて得しようと思ったことはほとんどないです。今までの人生を振り返っても「嘘をついた方が良かった」という場面が一つもなく、正直に生きた方が楽しいというのが理由かなと思っています。
 
本作も良い作品でしたが、薬丸さんの作品は良いものが多いので気になる方はぜひ読んでみてください。