花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

遠田潤子 雨の中の涙のように

遠田潤子 「雨の中の涙のように」
遠田さんの作品であらすじが気になった作品を読んでみました。
 

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高い人気を持つアイドルグループを脱退して役者の道を進んだ男性と出会うことで過去のしがらみと向き合い始めるという短編集になります。各章のメイン人物が上記の役者と出会う時期が異なり、最後の章でそれらの出会いを積み重ねた役者本人の心境が書かれています。
 
遠田さんの短編集は初めて読んだのですが、正直に言うと遠田さんの良さが薄れてしまっています。人物の描写の深さがなくなってしまっているため非常に勿体無い。各章の人物たちも時系列が離れていることもあって繋がりがなくぶつ切りになってしまいます。そういう悩みあるよねという共感があればよかったのですが、私にはどれも過去の経験に刺さるものではありませんでした。ただ、作品全体としてもう一捻りあればいい作品なりそうな気配はありました。
 
他の作品ほどおススメは出来ませんが、次の作品も期待しています。

中山七里 銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2

中山七里 「銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2」
前作を読んで面白かったので続編を読んでみました。
 

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元判事の静おばあちゃんと車いすに乗った玄太郎爺ちゃんが事件を解決していく短編集となっています。今作は孤独死、介護、運転免許返納など高齢者に関係する問題が各章のテーマになっています。
ただ事件を解決するだけでなくその裏にある人々の思いを汲み取っている描写が多くあるため、人情味のあるミステリーとなっています。最後の章ではそれまで短編集の内容とつながった展開となるため、単純にミステリーとしても良く出来ている作品です。
ミステリー部分も面白いですが、主役二人が語る人生観がとてもためになります。今の現役世代の人たちが忘れてしまいがちな考え方を教えてくれています。前作は玄太郎爺ちゃんが暴れながらも筋を通している描写がメインでしたが、今作はこちらにフォーカスが当たっているという印象でした。
 
作中にて今の高齢者は労働に恵まれていたから不平等だ、という話が出てきます。
昔の環境が今より良いと感じるかは人によると思っています。ただ、私は「人による」で終わらせるのが嫌いなのでどういう人だったら昔の方が良いと感じるかを考えてみました。
一つ思い当たったのは刺激的な方法でストレス発散をしたがる自制心の弱い人たちは昔の方が良いと感じると思います。今ではオフィスやお店が禁煙だったり、パワハラやセクハラ、家庭内暴力などに厳しくなりましたが昔はいずれも平然と出来ました(と聞いています)。つまり環境自体は今よりも不便でありハードですが、その分過激な発散方法が許されていたということです。こういったことをやりたいけど出来ないと燻っている人たちには昔の環境の方が羨ましいのではないでしょうか。私はこのタイプではないのであくまで想像ですが。
 
作中にて問題を大きく見せて味方を作ろうとするのは1対1で戦う勇気がないから、というセリフがありました。当事者同士でぶつかれば済みそうな話をわざわざネットに持ち込むのが私には理解できませんでしたが、この言葉に納得しました。おそらく真っ向勝負では負けると分かるくらいに自分に非があるからぶつかるより先に味方を集めようと考えるのでしょう。
私は人と戦うときに味方を集めようとは思いません。ほとんどの個人的な問題は1対1で戦えば済みますので、味方を集めや寄せ集めの統率に使う労力が面倒臭いです。私としては味方を集めないと戦えない時点で自分には不相応な私利私欲を満たそうとしていると考えています。「身の丈をわきまえない」は人生の中で大惨事が起きる要因の一つなので、欲望に飲まれないように気を付けたいですね。
 
ミステリーとしてだけでなく、かつての日本人たちが大事にしていたことの教示としても読めるのでおススメです。

下村敦史 同姓同名

下村敦史 「同姓同名」
下村さんの作品で題材が面白そうな作品があったので読んでみました。
 

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少女を惨殺したのが少年だったので実名が出なかったのだが、SNSにて「大山正紀」であると拡散されてしまう。その影響はすさまじく、同姓同名の人々が実生活で嫌がらせや拒絶を受けるようになる。
月日が経ち犯人の少年が刑期を終えたことで再び「大山正紀」が再燃したことを期に、同姓同名の一人が「大山正紀同姓同名被害者の会」を立ち上げる。なんとか状況を打破するために本物の犯人を見つけ出そうとする、というお話。
 
名前をテーマにしたミステリー小説です。
同姓同名を利用した色々な仕掛けが見所です。常に何かしらの仕掛けがある上で物語が展開されていくので最初から最後まで飽きがありませんでした。ちゃんと読めば真相を当てることも可能なので紙とペンを片手に推理してみるも良し。推理せずに展開を楽しんでも良しという内容でした。
ミステリー部分も面白いですが、職場に同じ姓がいたときに「優秀な方の〇〇」という言い方をされるのは苦しい、有名人と同姓同名で名乗るのがつらい、といった名前に関する悩みや問題についても書かれています。私は姓が珍しいためそういった状況にはなったことがないので読んでいて新しい視点や発見がありました。
一点気を付けたいのはすでにお気づきでしょうが同姓同名の人物が多く出てくるので人物把握に苦労があります。本作は意図してそうなっているので悪い点にはならないのですが、登場人物の名前付けは読みやすさを決める点で重要だと改めて思いました。
 
作中にて犯罪者と同じ名前だったらキラキラネームの方が良かった、というセリフがありました。キラキラネームが問題視されてからもう随分と経ち、たまにテレビで見るようになりました。善し悪しについては議論が尽くされたと思うので私がキラキラネームについて思うことを書いてみます。
子の名前を好きに付けるのは問題ないと思いますが、この「好きにしていい」というのは当事者の欲望が強く出てくると考えています。仮にキラキラネームを付けられてしまった人がいたら、その人の親は「子が名前で嫌な目に会うリスク」と「自分がこの名前を付けたい欲望」を比べて後者が勝つ強欲な親だと推測できます。付けられた当人の人間性とは別なのでその人自体は問題視しませんが、家族ぐるみの付き合いなどその親と接触するのは拒否するでしょう。
現在のコロナ拡大に対しての行動もそうですが「好きにしていい」と言われたときに自身の欲望しか考えない人とは関わりたくない、というのが私の意見です。
 
題材が面白い作品ですので気になった方は読んでみてください。