花の本棚

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久坂部羊 廃用身

久坂部羊 「廃用身」

久坂部さんの作品で最初に手にした作品。読んだ時の衝撃はかなりのものでした。

 



主人公は老人医療とデイケアに携わる医者。老人介護の将来について危機感を抱いている最中、ある画期的な医療方法を思いつく。
それは回復の見込みのない麻痺した手足を切断するという方法であった。患者の同意を絶対条件として施術していき施設内での評判も順調で、施術の本の出版も予定していた。しかしその前にマスコミがそれを聞きつけて悪魔の医者として明るみに出されてしまう、というお話。なおタイトルの「廃用身」は上で書いた麻痺して回復する見込みのない人体部位を指す医療用語です。

この作品の特徴はリアリティに尽きます。
作品はフィクションなのですが、読んでいると実話に思えるほど。
そして老人の四肢を切断していき、切った後の方が元気になったものだから切ってほしいという人が次々続く不気味さ。思わず本当にフィクションかググって確認してしまいました。

ここだけだと狂気に見えますが、切断の有効性についても語られています。
一つは体重が軽くなること。被介護者の体重が軽いほうが世話がしやすくなります。いずれ介護する側の1人あたりの負担が大きくなる一方という背景から効率化が重要になるということです。
もう一つが血の循環。麻痺して動かない部分へ送られる血が頭などのほかの部位にまわるので認知症が改善したり運動能力が上がるという。

フィクションの中の話なのでどこまでが本当かは定かではありません。むしろ定かになったら危険だと思います。否定ならまだしも、もし科学的に有効なことが証明されればドンドン切断していく方針に傾いていくかもしれません。
技術の進歩により介護ロボットなど別の手段もありますが、そういった選択肢があるのは裕福な人だけです。貧しい人たちは迷惑かけないために不要な身体のパーツは切断する、なんて時代が来るかもしれないと。少子高齢化によるマンパワーの低下への意識が高まってる時代なので本当に来そうな気がしてます。

作品から少し外れますが興味を引いたのは、臨床医によるあとがきの「精神を病む」についての見解。本書いわく「物事の優先順位が常識や良識から大きく逸脱した状態」と見るのが最もシンプルな判定方法だそうです。なんか納得してしまった。

他にも老人の虐待や自宅介護の過酷さ、介護されている老人の心理など全部書くと膨大になるくらいのことが語られています。
極端な内容も混ざってますが、高齢化社会になる今後を考えると一読の価値あると思います。