花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

高野結史 奇岩館の殺人

高野結史 「奇岩館の殺人」
あらすじを見て面白そうだったので買ってみました。


 
主人公の男性は高額の日雇いバイトで孤島の館に向かっていた。その館ではクライアントが「探偵役」となり、ミステリー小説のような殺人現場をスタッフたちが実際に人を殺して作り出して犯人を推理するという推理ゲームが行われていた。このままでは被害者役としてスタッフたちに殺されてしまうと気づき、自分が殺される前に「探偵役」に真相を解かせてゲームを終わらせようと考えて動き出す。
一方でスタッフ側では連続殺人犯役のスタッフが第一被害者役から反撃を受けて死亡してしまうというトラブルが発生した。クライアントを満足させるために物語を急遽変更したり、犯人役を別のスタッフで用意したりと慌ただしく対応に追われていた、というお話。
 
エンターテインメント系のミステリー作品となります。近頃「マーダーミステリー」というミステリー小説の中に入ったかのように楽しめる公演がありますが、実際に殺人事件を起こしてさらにリアルにした遊び、という設定になっています。
殺され役側と主催者側の視点を行き来しながら物語が進んでいくという内容です。殺され役側は命が掛かったシリアスな内容である一方で主催者側はやらかしを尻拭いしていくようなコメディテイストで書かれているため、このギャップが面白い点が本作の見所となります。
エンタメ部分では実際に推理小説のような見立て殺人をしようとするとどれだけ大変かが書かれています。遺体を運ぶのにも犯人役だけでは無理なのでスタッフ数人で手助けして現場を作っているといったコメディのようなシーンが多くありました。連続見立て殺人を推理したいなんて面倒なリクエストしやがって…と悪態づきながら現場を用意しているシーンなどは残酷なシーンのはずなのに面白おかしく読めるというのが本作の見所になるでしょう。
ミステリーの部分は「探偵役」が誰なのかを探る点になります。こちらはコメディ一切なしで作中の描写や推理小説における探偵の動きといったものから推理していくことになります。コメディ作風とは裏腹に伏線の張り方や真相の内容は非常に上手く出来ているため、こちらも本作の見所になります。
 
エンタメとミステリーどちらも面白く出来ている作品ですので、気になる方はチェックしてみてください。

安藤広大 とにかく仕組み化

安藤広大 「とにかく仕組み化」
私の職場で課題になっていることに対して役立ちそうな内容だったので買ってみました。
 


チームの業務やルールを仕組み化することが現代では重要だと説いています。「仕組み化」は明文化したり、誰でもやり方が分かるようにしたりすることを指しており、対義語は「属人化」だと本書には描かれていました。つまり本書は属人化を解消するために仕組み化を進めるにあたっての考え方を紹介しています。私のチームの課題はまさにこの「属人化」だったので買ってみた次第です。
大項目と一言でのまとめは以下となります。
①放っておくと属人化してしまう理由
 端的に言うと属人化は個人にとってのメリットが非常に大きいから。だからこそマネージャーやリーダーはチームのメリットを得るために個人のメリットを破壊する強い意志を持って仕組み化を進めなくてはいけない
 属人化による個人メリット:
 承認欲求が満たされる、新しい事をしなくて良い、失敗して恥をかくリスクが減る、業務割り振りが楽(マネージャー/リーダー視点)、etc.
②仕組み化のために必要なこと
 正しい「危機感」をチームに持たせることが最重要。「〇〇の業務を今期仕組み化(≒属人化解消)が出来なかったら降格」くらいの気概がチームの雰囲気にあっても良いとのこと。
 次に大事なのは平等さ。明文化されていないルールがあると人によってやる/やらなくていいという不平等が生じる(ありがちな例:気づいた人がやる、業務配慮の人はやらなくていい)。それを明文化することも仕組み化には必要。
③個人と組織について
 現代では個の価値観や事情を配慮するのがトレンドであるが、組織として仕組み化を進めるときに個人のことは不平等につながるため配慮しない方が良い
 
といった内容になります。かなり手厳しいことが書かれていますが内容としてはためになる考え方が紹介されていました。本書では考え方が主に書かれているため、仕組み化するための具体的な手段については紹介されていません。本書によると属人化してしまう原因は言うなれば「組織人としての生活習慣」であることがほとんどのようです。そう考えると上に書いた「危機感を持たせる」は「健康診断の結果がヤバ過ぎたので生活習慣見直す」のような効果はありそうだと納得していました。
 
本書では今後の業務をこうしてみよう、というためになる考え方がたくさん出てきていました。全部紹介すると長くなるので最初にやってみようと決めた2つを紹介します。特に2.の方の自虐ネタは言う人を以前から嫌悪していたので自戒を込めてまずやります。
1. 属人化解消することを目標設定面談で宣言してみる
ちょうど目標設定の時期なので自分の業務のどれかを自分以外の人も出来るようにすることを目標設定面談で言ってみる(=やるしかない危機感を作る)。達成したら評価加点にしてもらえるようになったらベスト
2. 勉強や改善をしていないことを自虐ネタにしない
「〇〇が苦手ですみません」「〇〇のことを勉強もせずに意見するのは申し訳ないですが」のような自虐ネタや前置きを言っていると勉強/改善しないことを良しとする空気になりやすいと書かれていました。恥ずかしさを打ち消すためについ出てしまったら、もう一回同じネタを言わないように勉強する。
 
抽象度の高い話でありながらもためになる考え方がたくさん紹介されているので、気になる方はチェックしてみてください。

遠藤かたる 推しの殺人

遠藤かたる 「推しの殺人」
第22回『このミス』大賞・文庫グランプリを受賞した作品になったこちらを読んでみました。

 



 
主人公は地下アイドルとして活動する女性。コロナの影響によりどの事務所も経営が厳しく、メンバーたちは汚れ役のような接待もしなくては生き残れない状況であった。
あるときグループメンバーの一人が秘かに交際していた所属事務所の社長を殺害してしまう。今のメンバーでアイドルを続けたいという想いから、社長の遺体を山に埋めることになった。事件をきっかけにメンバー間での絆が強まり人気も上がり始めたが、事件が露呈することに怯える日々であったというお話。
 
アイドル業界を舞台としたエンターテインメント系のミステリー作品となります。
本作は主人公が犯人側なのでいかに事件への関与がバレないように振舞うかという内容です。そういった内容なのでミステリーというよりはエンターテインメント系に近いでしょう。本作の見所は読みやすさとテンポの良さになります。次々と展開が変わっていくのであっという間に最後まで読めます。そういった意味で気軽に手を出せるのが良い点になると思われます。
またアイドル業界に関する実情についても詳しく描かれています。去年ジャニーズ事務所の件が話題になりましたがあれも上位のごく一部であって、その下には闇の深い部分が多くある業界だと知れたのはためになりました。
 
本作のタイトルが「推しの殺人」なので推し活の話が出てくるのかと考えていたのですが、それについてはあまり描写がありませんでした。
私は「推し活」というのを実は未だによく分かっていません。特定の人の楽曲を買って聞いたことがありますが、これはただのファンであって世間でいう「推し活」はもっと深いところにありそうだという印象です。
知っている範囲で考えると、私は性格的に「推し活」には向いてなさそうな感じがします。というのも特定の個人や団体に長期間熱量を注げる性格ではなく、新しい面白そうなものを見つけると移って行ってしまうタイプだからです。読書に対しても「一人の作家さんの全作品を読破しよう」とは考えたことがなく、書店で見かけたものやamazonのおすすめでパッと現れた作品から面白そうと感じ取ったら買うようになっています。
これらは好きなものに対しての向き合い方なので良し悪しで考えてはいませんが、「推し活」は今トレンドのようなのでどんなものかは知っておくといいかも、くらいに考えています。
 
雰囲気が軽くて読みやすいので、気になる方は気軽にチェックしてみてください。