花の本棚

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朝井リョウ ままならないから私とあなた

朝井リョウ 「ままならないから私とあなた」
あらすじを読んで気になった作品。

 

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価値観をテーマにした2つの物語を書いています。
価値観は人それぞれ、と言われ始めて随分と経ちますがこの主張をどう思いますか?というのが本作の内容になると思います。
一本目は秘密をさらすことでお互いに信頼しあえるという主張。
二本目は技術の進歩で効率を求めるのは悪いことなのか?という主張。
主張する人と反対する人がそれぞれどういった思いを持っているのかを描いています。朝井さんは心情を表現するのが上手いので読んでいて面白いです。
自分がどちらの立場に立つかはさておいて、相手側が何を考えているのかを知るいい機会になると思います。
 
せっかくなので2つのお話についての意見を書いてみます。
「秘密をさらすことでお互いに信頼しあえる」は絶対にないと思っています。
私の価値観では秘密というのは墓まで持っていくような物を意味するので人の前で口にできる時点でまず秘密ではない。
またもし私の信頼を得るために秘密を話す人がいたとしたら、その人はまた違う人の信頼を得るために私との秘密事を話す可能性が高い。そもそも、信頼しあえる関係になったから言いづらいことも話せる、というのが正しい流れなので先に言いづらいこと言って気を引かれても心は動かない。
 
二つ目の「効率を求めるのは悪いことなのか?」についてはただのトレードオフの問題だと思います。
例えば「日の出が見たい」となったときに「自分の足で山の頂上に登って見る」「ネット中継で見る」のどっちが良いかと考えると、その人が日の出にどれくらいの労力をかけてもいいと思うかの違いで説明がつきます。それを「自分の足で登らないなんてわかってない」とか「山登りなんて愚か」とか言って自分の主張の方がグレードが高いと思わせようとするから面倒なことになる。
本人が楽しめていれば過程など大した問題ではない、と常々思います。
 
今まで読んできた朝井さんの作品に比べるとサクッと読めるので、手軽に楽しみたい人におすすめです。