花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

櫛木理宇 チェインドッグ

櫛木理宇チェインドッグ」
他の方の書評を読んで気になったので買ってみました。



主人公の元に一通の手紙が届く。差出人は実家の近所のパン屋の店主であり、今は猟奇的な殺人犯として逮捕されている。
面会しにいくと、9件の殺人のうち最後の1件だけは免罪であったと打ち明けられる。
退屈な学生生活に刺激を与え、自分を頼りにしてくれる殺人犯に次第に魅かれていく、というお話。

本作はサイコパスと称される人物がどのように人に取り入れるかが書かれている作品です。
前にサイコパスが話題になってたことがありましたが、それに乗って書かれた作品なんですかね。
ミステリーと帯に書かれていたのですが、どちらかというと心理描写がメイン。
主人公が殺人犯と接していくうちに、心情がどう変わって、取り込まれていくかという描写は結構リアルでした。
サイコパスの人は一見すると人当りが良くて人気者になりやすい、と一般的に言われています。それがどういった思考に基づいた行動となっているかが本書には書かれていますので、興味深いものでした。
ミステリーの方はそんなに深くないので気構えずに読む方が楽しめます。

本書はホラーテイストなので暴力的なシーンが結構あります。それを読んでいてふと思ったのですが、近年の傾向として暴力に対する警戒心が薄れているように私には見えます。乱暴な言い方をすると「自分に暴力を振るってくるはずがない」と高を括って行動している人が増えています。それだけ日本が平和ということなので一方的に悪いとは思いませんが、いざというときに自衛できる力がないと取り返しのつかないことになります。
相模原の障害者施設殺傷事件から一年とTVで出ていましたが、あれだけ人数がいて一人の男性を取り押さえられないのは妙だと思いました。この例は極端ではありますが、それだけ暴力が目の前に迫ったときに対抗できる人が減っているのを表しているかもしれません。スカッとする話が最近良い笑いのネタとして出てきているのをみると、横暴を正してくれる誰かがいると良いなー、という願望はありそうに思える。

もう一つ、登場する殺人犯の思考として面白いことが書いてありました。
それは「相手の選んだ行動を尊重する」ということでした。実のところは殺人犯が相手を精神的に脅迫して取れる選択肢を都合の良いものしか残らないようにしているのですが、そこを悟られないようにしているので相手としてはまるで「自分で選んだ行動を受け入れてくれる人」と映るとのこと。
意思の弱い人がこれをされると一気にその人物の虜になってしまうそうです。傍から見ると苦笑してしまいそうですが、マルチ商法とか怪しい宗教などにのめりこんでしまう人は大体こんな感じなのではないでしょうか。

この著者の本は初めてでしたが読みやすくて世界観も良いのでいくつか読んでみることにします。