花の本棚

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下村敦史 生還者

下村敦史 「生還者」
前に読んだ同著者の「闇に香る嘘」が面白かったので読んでみました。



主人公は登山家。ネパールの雪山で発生した雪崩に巻き込まれて兄を含む4名の遺体が発見された。兄は4年前に婚約者を雪山で亡くしてから山から遠ざかっていたにも関わらず、死亡率が高いと有名な山に挑んだことに違和感を覚える。また兄の遺品の登山装備を整理していると細工された形跡が見つかり、兄は殺されたのではないかと疑い始める。その最中で同じく雪崩に巻き込まれたが奇跡的に生還した男性が発見されるが、彼は兄のいた登山隊に助けを求めたが見捨てられたとインタビュー告白した。兄はなぜ山に戻ったのか、その真相を探るというお話。

内容はあらすじ読むとミステリーなのですが、帯に書いてある「山岳ミステリ&エンターテイメント」が本作のジャンルです。というのも登山に関する知識がないと真相の推理が出来ません。医療についての知識がないと解けないものを「医療ミステリー」と呼んでいるとしたら、この表記はまったくもって正しい。本選びで帯に騙さるケース多い中で帯の方が嘘ついてないのは初めてかもしれない。

登山知識を持ってないので何も考えずに読んでいましたが、そんな読み方をしてても伏線の拾い方が上手いのが分かります。登山知識がある人から見たらもしかしたら見え見えな伏線かもしれませんが、知らない私から見ると「あれってこの真相と繋がってるんだ」と驚かされる場面が結構ありました。

エンターテイメントとして見ると登山について色々と知れてためになります。
登山家がどんなに山に対して敬意を払っているか、どんな心構えで山に挑むのかなど登山家ってこんなにカッコ良かったのかと感心しました。
面白かったのは、登山は疲労や脅威と隣り合わせなので本音が吐露しやすいということ。今まで大人しい人格に見えた人がいきなり傲慢になったりと、余裕が無くなることで隠れていた人格が表に出てくるそうです。また本音を吐露しあうことで信頼関係が築けるので(一時的に?)心理的距離が近くなりやすいとのこと。
ですので信頼関係や本音を確かめたい人や急速に距離を縮めたい人がいる、という方はその相手と山登りに行くと良いかもしれません。

まだ2冊目ですがこの著者の作品はミステリーとしての完成度高いと思います。ミステリー好きな方にはおススメできる著者&作品でした。