花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

薬丸岳 Aではない君と

薬丸岳 「Aではない君と」

去年くらいに読んだ作品です。



主人公は一人息子のいる男性。ある日息子が警察に死体遺棄の容疑者として逮捕された。しかし取り調べや弁護士との面談でも息子は何も話さない。このままでは反省の色なしと厳しい判断が下されるため、父親が弁護士に代わって息子と面談をする「付添人」となる。なぜ息子は何も話そうとしないのかを紐解いていくというお話。

テーマは「子供が犯罪したとき親にできることは何か」です。犯罪の加害者になってしまった自分の子供に対してどう接していくのかを書いています。被害者に対してどうするかはいろんな本で書かれていますが加害者であっても子供に寄り添うという形で書いてある作品は初めて読みました。薬丸岳らしい優しげな視点で書かれています。

「行動の善し悪しは別にして、なぜ子がその行動をしたのかを考えなくてはいけない」というのが親としてあるべき姿だと本作の中で語られていました。行動に対してのみ良い悪いをすぐ決めようとする人は多くいますが、その行動の理由や思いを聞いてから非難しても遅くはないと私は思っています。褒めるにせよ責めるにせよ一分一秒を争って行う必要はありませんから。

もう一つ語られてたことは「心と身体どちらを殺すのが悪いか」という問いかけです。作中では身体を殺す方が悪いと言われています。理由は生きてさえいればその人の言葉や想いを聞くことが出来るから。身体を殺すのは犯罪だから、という安直な理由で語らないところはさすがだと思いました。しかしこの視点は当事者同士ではなくあくまで事の外から見た視点です。
当事者同士で考えると心を殺される方がツラいと私は思います。死んだ心を抱えたまま生きていかなくてはいけないからです。また身体の死もいずれやってきて最低でも2回死を経験することになるという点からも、短い苦痛1回で死ねる身体の死の方が軽いというのが私の意見です。犯罪にならないから心を攻撃するのを問題視しない現代の風潮は受け入れることが出来ません。

この作品はぜひお子さんのいる方に読んでもらいたい。子供と接する上できっと良い視点が見えると思います。