花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

村田沙耶香 殺人出産

村田沙耶香 「殺人出産」

本のコミュニティで見つけた一冊。タイトルが気になったので。

舞台は少子化が進んだために10人出産すれば1人好きな人を殺してよい、という殺人出産制度が制定されている日本。その制度に則り出産する人は「産み人」と呼ばれ社会への貢献度の高さから崇められる存在であった。より生産的かつ合理的に殺人の行われるようになった世の中は果たして正しい姿なのだろうか、というお話。

今回はSF小説です。テーマは殺意について。背景と描写がなかなかにエグイため150ページほどの内容ですが読むのキツかった。
本書の中では「殺意を持つことは人間として普通のことなのでは」ということを投げかけています。マナーが悪い人に対して死ねばいいのに、と思う殺意ではなく「この人を殺せば自分は解放される」というレベルの殺意のことを言っています。このレベルだと誰しも一回はあるよね~・・・というものとは思えませんね。

世間に大きく貢献することで非行を許されるとすれば結果的に良い世の中が出来るんじゃないかというぶっ飛んだ想像なので私にはイメージしきれてません。○人出産したら何か恩賞が得られるというのは数字だけ見れば少子化の回復につながりそうですが、見返りのためだけに産まれた子供というのが出てきて別の社会問題が誕生しそう。今でさえ子供の虐待が多く報告されているのにさらに問題が大きくなったらと思うと恐ろしいですね。

殺意がテーマということで私の意見を一つ書いてみます。本書で問いかけているような心の底から湧きあがるような殺意を持った場合、抑えずに行動に出た方が良い、というのが私の意見です。なぜかといえば実際に行動しても99.99%はどこかで頓挫するからです。殺人の道具を揃え、いつ襲撃するか計画を決め、そして実施というプロセスの中で、人間としての理性が少しでも残っていれば本能的に行動がどこかで止まります。それくらい殺人は難しい行動です。恐れているとかそういう話ではなく、殺人を完遂するには勇気とは別次元の極限の心理状態が必要だからです。なので心の中で燻り続けるよりは思い切ってやってみるのはアリです。失敗すれば自分に人間性がまだ残ってたことが分かりますし、万が一完遂してしまったら人としての心理状態を超えてもはや人間ではなくなってしまっていると諦めもつきます。
が狙われる方はたまったものじゃないのも事実です。とはいえ人に強烈な殺意を抱かせるような行動しなければいいだけの話なのでそんなに難しいことではありません、たぶん。

メインとなる内容の他にも3つ「こんな世の中になったらどうなるか」という短編が書かれていましたが、どれも不気味すぎて受け付けられなかった。作者の頭の中はいったいどうなっているんだろうか。

この本は気分よく読めることはまずないと思うのであまりおススメは出来ません。
ですが今の世の中の当たり前は本当に正しいのか?という問いかけは多くしてくれているので、気持ちを強く持って読めば色々と考えるきっかけにはなります。